二人は、駅舎の内部、かつて賑わったであろう中央コンコースを歩いていた。天井の一部は落ち、吹き抜けのようになり、上部からは砂とわずかな光が差し込んでいた。足元は、石材の破片や、朽ちた看板、砂の堆積で歩きにくい。
なつきが、崩れたベンチの残骸を跨いだ時、彼女の足が何か硬いものに触れた。
「ん?なんだろこれ」
なつきが砂を払うと、それは黒く錆びたアタッシュケースだった。持ち主が急いでいたのか、手放したのか、鍵はかかっておらず、サイドの金具が外れたままになっている。
「佐藤、不用意に触るな。トラップの可能性も――」
えちかの制止も聞かず、なつきは興味津々でケースを開いた。中には、薄く埃をかぶった何冊かの手書きのノートと、プラスチックの保存容器に密封された古いUSBメモリが入っていた。
「見て、えちか!日記?…ううん、違うな」
ノートの一冊を手に取ったなつきは、表紙に書かれた文字を指でなぞった。
『世界滅亡までの観測記録 (観測者:R.O.)』
えちかもゴーグルを外し、ノートに視線を落とした。
「観測記録だと?...100年前の人間が、何らかの事態を記録していた、ということか」
なつきはノートを開いた。インクは滲み、文字は薄くなっているが、日付と、気温、異常気象、社会情勢などが細かく記されていた。後半に進むにつれ、文字は乱雑になり、観測者の焦りが伝わってくる。
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