薄い砂塵が舞う空は、かつての青さを失い、常に鉛色に霞んでいた。世界が崩壊してから100年。佐藤なつき、16歳。明るい金色の髪をなびかせ、赤いスカーフを巻いた彼女は、隣を歩く宇野えちかを振り返った。えちかは黒髪をきっちり結び、目元を覆う防塵ゴーグル越しに、崩れかけたビル群を無表情に見つめている。二人が立っているのは、かつて「日本の顔」と呼ばれた場所――東京駅丸の内駅舎の前だった。
「わ〜お、相変わらず凄い景色だね、えちか。まるで巨大な砂場をそのままレゴブロックで作ったみたい!」
なつきは目を輝かせ、くるりと一回転して見せた。なつきの口調は呑気だったが、その目は周囲のわずかな動きも見逃さない。彼女の天才的な危機回避能力は、この荒廃した世界でも健在だった。
「佐藤、感動している場合か。私たちは元の時代に戻るための手がかりを探している。こんな場所で立ち止まっていても効率が悪い」
えちかは冷静に指摘した。彼女の性格は、ここがどんなに非日常的な場所であろうと揺るがない。腰に差した銃――もはや弾薬を探す方が難しい――に手をやり、周囲を警戒する。
駅舎の赤レンガは、風雨と砂嵐に削られ、まるで長い年月をかけて風化した岩のようになっていた。駅前広場にそびえていたはずの丸の内ビル群は、巨大な彫刻のように形を留めているが、窓ガラスは全て割れ、内部は空洞化し、時折崩落音が響く。大地にはひびが入り、そこから雑草が、アスファルトを突き破って生えている。街全体が、巨大な墓標のようだった。
「効率、効率って言うけどさ、えちか。こんな凄い場所に来たんだから、ちょっとくらい楽しんだってバチは当たらないよ。それに、元の時代に戻る手がかりなんて、きっとこういう『残骸』の中にあるんだもん」
なつきは、駅舎中央の時計台を見上げた。時計の針は午前11時37分を指したまま錆びつき、止まっていた。
「たぶん、これが世界が崩壊した時間なんだろうね。100年前の、最後の時」
なつきは、まるでその時の人々の喧騒が聞こえるかのように、目を閉じて深く息を吸った。空気は乾いていて、わずかな鉄錆の匂いがした。
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