湖の縁に残された焚き火跡は、すでに灰となり、風にさらわれていた。テントの布切れは半ば湖面に落ちかけ、湿った匂いを放っている。
「うわぁぁぁ……誰かここで寝泊まりしてたんだねぇぇ!」 なぎさは布切れを持ち上げて、まるで宝物を見つけたかのように目を輝かせた。
りんは黙って周囲を調べる。石の隙間に挟まっていた古びた革の手帳を見つけ、静かに取り出した。
「……手帳。」 「えっ!?ほんとに!?すごいすごいーー!」 なぎさは飛び跳ねながら覗き込む。
手帳の中には、かつてこの湖を訪れた兄妹の記録が残されていた。 「霧の峡谷を越え、湖に辿り着いた。ここで星を見ながら眠った。妹は笑っていた。」
「……兄妹。」 りんは短く呟く。だが心の奥では、なぎさとの旅を重ねて思い出し、胸が熱くなった。
「わぁぁぁ……なんか私たちみたいじゃん!ねぇねぇ、りんはお姉ちゃん役?それとも妹役?」 「……どっちでも。」 りんは淡々と答えるが、心の中では「妹役の方が近い」と思っていた。
突然、湖面が大きく揺れ始めた。風が強まり、湖の水が空中に舞い上がる。
「きゃーーー!水が降ってくるーー!」 なぎさは慌てて荷物を抱えたが、足を滑らせて湖の縁に倒れ込んだ。
「……危ない。」 りんは即座に手を伸ばし、なぎさを引き上げる。二人は風に煽られながら必死に踏ん張った。
「りんーー!ありがとーー!私、落ちるとこだったぁぁ!」 「……当然。」 りんは短く答えるが、心の中では「失いたくない」と強く思っていた。
湖面は荒れ狂い、まるで空そのものが崩れ落ちるようだった。二人は互いに支え合い、嵐が収まるまで耐え抜いた。
嵐が過ぎ去り、湖面は再び静けさを取り戻した。二人は焚き火跡に戻り、手帳を胸に抱いた。
「ねぇりん……この兄妹も、きっと助け合って旅してたんだよねぇぇ。」 「……そう。」 りんは短く答える。だが心の奥では「私たちも同じだ」と思っていた。
なぎさは笑顔で言った。 「私たちも、絶対最後まで一緒に旅するんだよーー!」 りんは少しだけ口元を緩めた。 「……約束。」
二人は手帳を大切に荷物へしまい、湖を後にした。霧の峡谷を振り返ると、光の粒子がまだ淡く舞っていた。
「さぁーー!次の旅へ行くよーー!」 「……行こう。」
二人の声が重なり、霧の中へと消えていった。
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