瓦礫都市は、遠くからでも異様な存在感を放っていた。かつて空を突き抜けていた高層ビル群は、今や巨大な骨のように折れ曲がり、互いに寄りかかりながら倒れている。鋼鉄の梁が空に突き出し、ガラス片が光を反射してきらめく。まるで都市そのものが巨大な怪物に食い荒らされた後の残骸のようだった。
「わーーー!ビルが寝っ転がってるーー!でっかいジェンガみたいだよぉ!」 なぎさは両手をぶんぶん振りながら、崩れたビルの間を見上げて叫んだ。声が反響して、瓦礫の谷間にこだました。
「……危ない。」 りんは短く言った。足元には割れたコンクリート片が散乱し、少し踏み外せば鋭い鉄骨に触れる。冷静な目で周囲を観察しながらも、心の奥では「この光景は圧倒的だ」と感じていた。
なぎさは瓦礫の隙間から覗き込んで、「おぉぉぉ!あっちのビル、斜めに倒れて橋みたいになってるーー!」と大興奮。 りんは眉をひそめて「……渡るな」と即答する。
「えぇぇぇーー!冒険心がくすぐられるのにぃ!」 「……落ちる。」 「むむむーー!りんは慎重すぎるんだよぉ!」
二人の声が瓦礫の谷間に響き、都市の静けさを少しだけ賑やかにした。
空は灰色の雲に覆われ、時折吹き抜ける風が鉄骨を鳴らす。都市全体がまだ生きているかのように軋み、崩れたビルの影が長く伸びていた。
「でもさぁ……なんか、ここに人が住んでたって信じられないよねぇぇ。」 「……百年前。」 りんは淡々と答える。だが心の中では「人々の生活の痕跡がまだ残っている」と思い、少しだけ胸が締め付けられていた。
なぎさは瓦礫の上に立ち、両手を広げて叫んだ。 「さぁーー!冒険の始まりだぁぁぁ!」 りんはため息をつきながらも、なぎさの背中を追った。
瓦礫都市の奥へと足を踏み入れると、崩れたビルの影が迷路のように入り組んでいた。鉄骨がむき出しになり、コンクリート片が積み重なっている。時折、風が吹き抜けて鉄骨が「ギィィ……」と鳴り、まるで都市がまだ呻いているようだった。
「わぁぁぁぁ!探検だぁぁぁ!」 なぎさは瓦礫の隙間を覗き込みながら、まるで宝探しのように目を輝かせている。
「……危険。」 りんは短く言う。だが心の奥では「この廃墟に何か残っているかもしれない」と期待を抱いていた。
二人は瓦礫の間を進み、やがて冷凍食品倉庫の跡を見つけた。扉は半ば壊れていたが、中はまだ冷気が漂っている。
「おぉぉぉ!冷凍庫だぁぁぁ!何か残ってるかもーー!」 なぎさは勢いよく中へ飛び込む。棚には古びたパッケージが並び、氷に覆われていた。
「……食べられる?」 りんは眉をひそめる。
「うーん……賞味期限は百年前だけどぉ……氷漬けだからセーフかもーー!」 なぎさは真剣な顔で袋を振り回す。袋には「冷凍ピザ」と書かれていた。
「……無理。」 りんは即答する。
「えぇぇぇーー!せっかく見つけたのにぃ!」 なぎさは肩を落とすが、すぐに笑顔に戻った。 「でもさぁ、これ持って帰って焚き火で焼いたら……香ばしい匂いだけは楽しめるかもーー!」
りんはため息をつきながらも、心の中では「匂いだけでも悪くない」と思っていた。
二人は冷凍庫からいくつかの袋を持ち出し、瓦礫の上に並べて「幻の晩ごはん候補」として笑い合った。都市の荒涼とした空気の中で、少しだけ温かい時間が流れた。
瓦礫の迷路を抜けて進んでいると、突然、遠くの空間に光の筋が走った。まるで夜空を切り裂く流星のように、都市の谷間を一直線に駆け抜けていく。
「わぁぁぁぁ!なんかピカーって走ったよぉぉ!」 なぎさは目を丸くして指差す。
「……列車。」 りんは短く言った。確かに、光の筋は規則的で、ただの幻ではない。鉄路の残骸に沿って、無人の車両が自律走行しているようだった。
近づくと、列車の外観が見えてきた。錆びた車体に淡い光が走り、側面には「移動図書館列車」と古びた文字が浮かび上がっている。スピーカーからは雑音混じりの音声が流れ、時折「ブツッ」と途切れながらも、確かに案内をしていた。
「ひゃーー!図書館が走ってるんだよぉぉ!本がいっぱい積んであるのかなぁぁ!」 なぎさは大興奮で瓦礫を飛び越えようとする。
「……落ちる。」 りんは冷静に警告するが、心の中では「本があるなら見たい」と強く思っていた。
列車は速度を落としながら都市の奥へ進んでいく。二人は慌てて追いかけるが、瓦礫に足を取られてドタバタと転びそうになる。
「待ってぇぇぇ!図書館さーーん!」 「……うるさい。」 りんは呟きながらも、なぎさの必死さに少し笑いそうになった。
列車の光は都市の影を切り裂き、二人を導くように進んでいく。
列車は瓦礫都市の奥で速度を落とし、やがて倒壊した駅跡のような広場に停車した。車体の側面に「移動図書館列車」と古びた文字が淡く光り、スピーカーから雑音混じりの音声が流れる。
「ジ……ジジ……次ノ停車ハ……中央データタワー跡……」 機械的な声が途切れ途切れに響き、瓦礫の谷間に反響した。
「おぉぉぉ!しゃべったぁぁぁ!図書館列車がしゃべったよぉぉ!」 なぎさは飛び跳ねながら両手を振り回す。
「……停車駅。」 りんは短く呟く。だが心の奥では「本当に追えば何かが見つかる」と確信していた。
列車のライトが点滅し、再びゆっくりと動き出す。二人は顔を見合わせた。
「追いかけるしかないよねぇぇぇ!」 「……決定。」 りんは頷き、なぎさは「やったーー!」と声を上げた。
瓦礫都市の風が吹き抜け、鉄骨が鳴る。二人は移動図書館列車を追って走り出した。
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