移動図書館列車は瓦礫都市を抜け、ゆっくりと加速していった。二人は必死に追いかける。鉄骨の間をすり抜け、崩れた道路を飛び越え、まるで鬼ごっこのような騒ぎだった。
「待ってぇぇぇ!図書館さーーん!」 なぎさは声を張り上げ、瓦礫に足を取られて「どてっ!」と転びそうになる。
「……走れ。」 りんは短く言いながらも、手を差し伸べてなぎさを引き起こす。心の奥では「無茶ばかりする」と苦笑していた。
列車は古びたレールの上を滑るように進む。車体の側面が淡く光り、まるで都市の影を切り裂く灯火のようだった。
「うわぁぁぁ!もうすぐ追いつけるよぉぉ!」 なぎさは息を切らしながら叫ぶ。
「……飛び乗る。」 りんは冷静に言った。だが心臓は早鐘のように鳴っていた。
列車の速度は一定だが、瓦礫の上を走る二人には過酷だった。なぎさは「ひゃーー!」と叫びながら、列車の側面に手を伸ばす。
「いっけぇぇぇ!」 彼女は勢いよく飛びつき、車体の取っ手にしがみついた。
「……無茶。」 りんは呟きながらも、すぐに続いて飛び乗った。二人は列車の揺れに振り回されながらも、なんとか車体にしがみついた。
「やったーー!乗れたぁぁぁ!」 なぎさは笑顔で叫ぶ。 りんは無言のまま、心の中で「本当に乗れた」と安堵していた。
列車は瓦礫都市を離れ、静かな軌道を進んでいく。二人はようやく車内へと足を踏み入れた。
列車の内部に足を踏み入れると、そこは外の荒廃した都市とはまるで別世界だった。薄暗い照明の下、壁一面に古びた本棚が並び、背表紙がぎっしりと詰まっている。紙の匂いと機械油の匂いが混ざり合い、奇妙に落ち着く空気を漂わせていた。
「わぁぁぁぁ!ほんとに図書館だぁぁぁ!本が山盛りーー!」 なぎさは両手を広げてくるくる回り、まるでお祭りに来た子どものように喜んでいる。
「……すごい。」 りんは短く呟いた。だが心の奥では「夢みたいだ」と強く感じていた。
車内には本棚だけでなく、古い端末やアーカイブ機器も並んでいた。スクリーンにはかつての地図や海報が映し出され、時折ノイズが走る。
「おぉぉぉ!これ、昔の観光ポスターだぁぁぁ!『ようこそ未来都市へ』って書いてあるよぉぉ!」 なぎさは笑いながらポスターを指差す。
「……皮肉。」 りんは冷静に言った。だが心の中では「未来都市はもう瓦礫だ」と哀しみを覚えていた。
列車の奥には、データアーカイブの端末が並び、光の粒子が舞うように情報が浮かび上がっていた。まるで知識そのものが形を持って漂っているようだった。
「ねぇねぇ、これ全部読めるのかなぁぁ?りん、絶対好きでしょーー!」 「……読む。」 りんは短く答え、すでに本棚へと歩み寄っていた。
なぎさは「やっぱりねぇぇ!」と笑いながら、棚の隙間から古びた料理本を引っ張り出した。 「じゃじゃーん!『冷凍食品を使った簡単レシピ』だってぇぇ!さっきのピザにぴったりーー!」
りんは無言で本を開き、心の中で「なぎさは食べ物ばかり」と苦笑していた。
列車の内部は、知識と記憶の宝庫だった。二人はその空間に圧倒されながらも、次の発見を期待して奥へ進んでいった。
りんは本棚の前に立ち、古びた背表紙に指を滑らせた。指先が止まったのは、厚い革表紙の百科事典だった。ページを開くと、黄ばんだ紙に細密な図版が並び、かつての世界の知識がぎっしり詰まっていた。
「……すごい。」 りんは短く呟いた。だが心の奥では「全部読みたい」と強烈な欲求が湧き上がっていた。普段は冷静な彼女の心が、文字の海に飲み込まれていく。
なぎさはその様子を見て、口を尖らせた。 「りん、すっごい集中してるぅぅ!私より本に夢中じゃん!」
りんは返事をしない。目はページに釘付けで、心の中では「知識が生きている」と感動していた。
「むむむーー!じゃあ私は食べ物探しだぁぁ!」 なぎさは列車の隅を探り、古びた棚から缶詰を見つけた。ラベルには「トマトスープ」と書かれている。
「じゃじゃーん!図書館スープだよぉぉ!」 「……図書館に食べ物?」 りんは顔を上げずに答える。
「あるんだもん!ほら、これで読書のお供にスープだぁぁ!」 なぎさは缶を振り回しながら笑った。
りんは心の中で「なぎさは本より食べ物」と苦笑しつつも、ページをめくる手を止めなかった。
列車の中は、知識とユーモアが交錯する不思議な空間になっていた。
列車の奥に進むと、突然、天井から淡い光が降り注ぎ、機械的な声が響いた。 「……司書ユニット、起動。ようこそ、移動図書館列車へ。」
「わぁぁぁぁ!しゃべったぁぁぁ!」 なぎさは飛び跳ねて両手を振り回す。
「……AI。」 りんは短く呟いた。だが心の奥では「本当に司書がいる」と驚きと期待が膨らんでいた。
光の中に浮かび上がったのは、人影のようなホログラムだった。柔らかな声で続ける。 「この列車は、旧世界の知識を保存し、旅人に伝えるために走り続けています。」
なぎさは目を輝かせて叫んだ。 「すごいすごいーー!本の守り神みたいだぁぁ!」
りんは静かに耳を傾ける。心の奥では「知識がまだ生きている」と感動していた。
司書AIは少し間を置き、淡々と告げた。 「次の目的地は……データタワー跡。そこに、人類の記録の断片が残されています。」
「おぉぉぉ!次の冒険場所だぁぁぁ!」 なぎさは両手を広げて喜ぶ。
「……行く。」 りんは短く答えた。だが心の奥では「必ず確かめたい」と強く思っていた。
列車の揺れが静まり、二人は新たな目的地へ向かう決意を固めた。
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