干上がった海底に足を踏み入れた瞬間、二人は思わず立ち止まった。かつて波に覆われていた場所は、今や広大な荒野のように広がっていた。砂は白く乾き、ところどころに沈んだ街の痕跡が突き出している。崩れた防波堤、半分埋もれた家屋の骨組み、そして船体の残骸が斜めに突き刺さるように露出していた。
「わーーー!海の底だぁぁぁ!街がひっくり返ってるみたいだよぉ!」 なぎさは両手を広げて走り回り、船体の残骸に登ろうとする。
「……やめろ。落ちる。」 りんは冷静に言う。だが心の奥では、この光景に圧倒されていた。海が消えた後の世界は、想像以上に壮大で、そして哀しい。
なぎさは船体の上でポーズを決めて叫んだ。 「見て見てーー!船長なぎさだぁぁぁ!」 「……沈没船。」 りんは短く突っ込む。
風が吹き抜け、乾いた砂が舞い上がる。かつて海藻が揺れていたであろう場所には、干からびた茎が残り、まるで化石のように固まっていた。
「なんかさぁ……ここで泳いでた魚たち、どこ行っちゃったんだろぉぉ?」 「……骨。」 りんは淡々と答える。心の奥では「生態系が変わったのだ」と冷静に考えていた。
なぎさは少し黙り込み、乾いた砂をすくって空に投げた。砂は風に乗って舞い、光を反射してきらめいた。 「でもさぁ……きれいだよねぇぇ。海がなくても、なんかキラキラしてる。」 りんは無言で頷いた。心の奥では「確かに美しい」と思っていた。
二人は干上がった海底を見渡し、次の発見を求めて歩き出した。
二人は干上がった海底をさらに歩き進めた。そこには、かつての海洋生態系の名残が奇妙な形で残っていた。
砂の上には大小さまざまな貝殻が散らばり、乾いた風に吹かれて「カラカラ……」と音を立てて転がっていく。中には、砂に固着して石のように変質したものもあり、まるで化石のようだった。
「わぁぁぁ!見て見てーー!貝殻が楽器みたいに鳴ってるぅぅ!」 なぎさは拾い上げて耳に当て、「ゴォォォ……」と風の音を真似した。
「……下手。」 りんは冷静に突っ込む。だが心の奥では「少し面白い」と思っていた。
さらに進むと、魚の骨が砂に埋もれていた。乾いた骨は白く輝き、まるで彫刻のように並んでいる。
「うわぁぁぁ!魚の骨がアートになってるぅぅ!」 「……食べられない。」 りんは即答する。
「えぇぇぇーー!骨せんべいにできないかなぁぁ!」 「……無理。」 りんは淡々と返すが、心の奥では「なぎさは本当に食べ物ばかり」と苦笑していた。
海藻の残骸も奇妙に変化していた。乾いた茎が砂の中で硬化し、まるでガラスのように透明になっている。光を受けると虹色に輝き、幻想的な景色を作り出していた。
「きゃーー!海藻がステンドグラスみたいだよぉぉ!」 なぎさは両手を広げて見上げる。
「……進化?」 りんは短く呟いた。心の奥では「環境が変わっても生き物は形を変える」と感心していた。
二人は笑い合いながら、干上がった海底の奇妙な生態変化を観察し続けた。
乾いた海底を歩いていると、ふいに風とは違う音が耳に届いた。 「……ん?」 りんが立ち止まる。
遠くから微かに響くその音は、金属が震えるような反復のリズムを持っていた。「ゴォォ……ン、ゴォォ……ン」と低く響き、しかしどこか人の声のようにも聞こえる。
「わぁぁぁ!歌ってるみたいだよぉぉ!」 なぎさは両手を耳に当てて、音の方向を探ろうとする。
「……機械音。」 りんは冷静に言う。だが心の奥では「確かに歌に聞こえる」と感じていた。
音は一定の間隔で繰り返され、乾いた海底に反響して広がっていく。まるで誰かが孤独に歌い続けているような、切なくも温かい響きだった。
「ねぇねぇ、これって灯台の歌じゃない?ほら、海がなくても歌ってるんだよぉぉ!」 「……可能性。」 りんは短く答える。心の奥では「灯台がまだ生きている」と確信し始めていた。
なぎさは音に合わせて「らーらーらー♪」と歌い出す。 「……下手。」 りんは即座に突っ込む。だが心の奥では「少し楽しい」と思っていた。
二人は音の方向を確かめながら、干上がった海底をさらに進んでいった。
音の方向を辿りながら進むと、遠くに細長い影が見えてきた。干上がった海底の果てに、一本の塔がそびえていた。かつて海を照らしていた灯台だ。周囲には沈んだ街の残骸が広がり、塔だけが孤独に立っている。
「わぁぁぁぁ!灯台だぁぁぁ!まだ立ってるよぉぉ!」 なぎさは両手をぶんぶん振りながら叫んだ。
「……古い。」 りんは短く呟いた。だが心の奥では「まだ歌っている」と確信していた。
灯台からは微かな光が漏れ、歌のような音が風に乗って響いていた。金属的な余韻が、まるで人の声と機械の声が重なり合うように聞こえる。
「ねぇねぇ、絶対あそこから歌ってるんだよぉぉ!行こう行こうーー!」 「……明日。」 りんは冷静に言った。心の奥では「夜に動くのは危険」と考えていた。
なぎさは少し不満そうに「えぇぇぇーー!」と声を上げたが、すぐに笑顔に戻った。 「じゃあ、明日の朝に冒険だねぇぇ!」
二人は灯台を見つめながら、夜の野営を準備した。乾いた海底に焚き火を起こし、歌のような音を聞きながら眠りについた。
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