翌朝、二人は干上がった海底を進み、ついに灯台の麓へ辿り着いた。塔は白く塗られていたはずの外壁が剥がれ、錆びた鉄骨がむき出しになっている。それでもなお、空に向かって真っ直ぐ立ち続けていた。
「わぁぁぁぁ!近くで見るともっと大きいーー!」 なぎさは両手を広げて見上げ、声を弾ませる。
「……古びた。」 りんは短く呟いた。だが心の奥では「まだ歌っている塔」に不思議な敬意を抱いていた。
灯台の入口は半ば崩れていたが、扉の隙間から淡い光が漏れていた。二人が近づくと、中から低い歌声が響いてきた。機械の反復音に人の声が重なり、奇妙な合唱のように聞こえる。
「ひゃーー!やっぱり歌ってるよぉぉ!」 なぎさは耳を澄ませて跳ねるように喜ぶ。
その瞬間、扉が軋む音を立てて開いた。中から現れたのは一人の老女だった。背は少し曲がり、髪は白く、しかし瞳は鋭く光っている。
「……誰だい。」 老女の声は低く、警戒心を帯びていた。
「わぁぁぁ!灯台のおばあちゃんだぁぁぁ!」 なぎさは思わず叫んだ。
「……失礼。」 りんは冷静に突っ込む。心の奥では「確かに警戒されて当然」と思っていた。
老女は二人をじっと見つめ、しばらく沈黙した。灯台の歌が背景で響き続ける中、緊張の空気が漂った。
老女は二人をじっと見つめたまま、灯台の内部へと戻っていった。しばらくして「ついてきな」と短く言う。二人は顔を見合わせ、恐る恐る後を追った。
灯台の内部は不思議な空間だった。壁には古い機械が並び、歯車やレバーが絶えず動いている。そこから「ゴォォ……ン」と低い音が響き、老女の声が重なることで歌のように聞こえていた。
「ひゃーー!ほんとに歌ってるんだぁぁぁ!」 なぎさは目を輝かせて機械に近づく。
「……危険。」 りんは冷静に突っ込む。心の奥では「確かに歌に聞こえる」と驚いていた。
老女は慣れた手つきでレバーを引き、機械に油を差す。すると音が少し澄んで、歌声のような響きが強まった。 「この灯台は、海が消えても歌い続ける。私が声を重ねてやらなきゃ、機械は止まってしまうんだよ。」
「わぁぁぁ!おばあちゃんと機械の合唱だぁぁぁ!」 なぎさは両手を広げて喜ぶ。
「……仕事。」 りんは短く呟いた。心の奥では「歌が灯台を生かしている」と理解していた。
老女は歌を続けながら、機械を整備する。声は低く、しかし温かく、機械音と重なって奇妙に心地よい旋律を生み出していた。
「すごいねぇぇ!毎日歌ってるの?」 「そうさ。歌わなきゃ、灯りも音も消えちまう。」 老女は淡々と答えた。
二人はその光景に圧倒されながらも、どこか安心を覚えていた。
灯台の内部での緊張は、やがて少しずつ和らいでいった。老女は二人を見つめながら、ため息をついて言った。 「……まぁ、腹を空かせてる顔だね。ついておいで。」
案内された部屋には、小さなテーブルと古びた鍋が置かれていた。老女は慣れた手つきで火を起こし、鍋に乾燥した野菜と保存食を入れる。やがて香ばしい匂いが広がった。
「わぁぁぁ!いい匂いーー!おばあちゃん料理上手だぁぁぁ!」 なぎさは鼻をひくひくさせて大喜び。
「……食べ物ばかり。」 りんは冷静に突っ込む。心の奥では「確かに美味しそう」と思っていた。
三人はテーブルを囲み、温かい食事を分け合った。老女は少し笑みを浮かべ、昔話をぽつりぽつりと語り始める。 「この灯台はね、海がまだあった頃から歌い続けてるんだよ。私は若い頃からここにいて……海を見守ってきた。」
「わぁぁぁ!ずっと灯台守なんだぁぁぁ!かっこいいーー!」 なぎさは目を輝かせる。
「……長い。」 りんは短く呟いた。心の奥では「孤独な年月を過ごしてきたのだ」と胸が締め付けられていた。
老女は鍋をかき混ぜながら続ける。 「海が消えても、歌は残った。歌うことで灯台はまだ生きてる。だから私はここにいるんだよ。」
なぎさはスープをすすりながら「すごいすごいーー!」と声を上げる。りんは黙って耳を傾け、心の奥で「歌が灯台を支えている」と深く理解していた。
食事の後、三人は笑い合いながら小さな時間を過ごした。灯台の中に、久しぶりに温かな空気が満ちていた。
夜の灯台は静かだった。外は干上がった海底の風が吹き抜けているが、内部では機械の低い音と老女の歌声が重なり、柔らかな旋律を生み出していた。
「わぁぁぁ……夜の歌ってもっときれいだねぇぇ!」 なぎさは毛布にくるまりながら、目を輝かせて聞き入る。
「……維持。」 りんは短く呟いた。心の奥では「この歌が灯台を生かしている」と深く理解していた。
老女は機械のレバーを操作しながら歌を続ける。声は少し掠れているが、機械音と重なることで不思議な力を帯びていた。 「灯台は歌で動く。私が声を重ねることで、機械はまだ息をしているんだよ。」
なぎさは感嘆の声を上げる。 「すごいすごいーー!おばあちゃんがいなかったら灯台止まっちゃうんだねぇぇ!」
「……責任。」 りんは短く言った。心の奥では「孤独な使命を背負ってきたのだ」と胸が締め付けられていた。
老女は歌を終えると、二人に向かって微笑んだ。 「しばらくここにいるといい。旅の途中だろうが、休む場所くらいは必要だ。」
「わーーい!灯台に泊まれるんだぁぁぁ!」 なぎさは飛び跳ねて喜ぶ。
「……滞在。」 りんは短く答えた。心の奥では「この時間を大切にしたい」と思っていた。
こうして二人は灯台に短期滞在することを決め、夜の歌に包まれながら眠りについた。
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