砂塵の都市を後にした二人は、風に吹かれながら荒野を進んでいた。やがて目の前に現れたのは、巨大な時計仕掛けの劇場廃墟だった。歯車がむき出しになり、錆びた鉄骨が軋む音を響かせている。
「わぁぁぁ!なんか遊園地みたいだよぉぉ!歯車がぐるぐるしてるーー!」 なぎさは両手を回しながら笑った。
「……廃墟。遊園地じゃない。」 りんは冷静に突っ込む。心の奥では「確かにどこか夢の跡のようだ」と感じていた。
劇場の内部は暗く、舞台の上には壊れた照明と幕が垂れ下がっていた。観客席は砂に埋もれ、誰も座っていない。だが、舞台中央には人影が立っていた。
 「ひゃーー!俳優さんだぁぁぁ!舞台に立ってるよぉぉ!」 なぎさは驚いて声を上げる。
「……ミネルバ。」 りんは静かに呟いた。心の奥では「この人物は観客のいない俳優だ」と確信していた。
ミネルバは舞台の上で、誰もいない観客席に向かって演じ続けていた。声は響き渡るが、返事はない。
「ねぇねぇ!誰も見てなくても演じてるんだねぇぇ!すごいよぉぉ!」 「……役割。」 りんは短く答える。心の奥では「自分たちもまた役割を演じている」と思っていた。
こうして二人は、時計仕掛けの劇場廃墟でミネルバと出会った。
舞台の中央に立つミネルバは、誰もいない観客席へ向かって朗々と台詞を紡ぎ続けていた。声は劇場の歯車に反響し、空虚な空間を満たしていく。
「わぁぁぁ!ほんとに演じてるよぉぉ!観客ゼロなのにすっごい迫力ーー!」 なぎさは目を輝かせて舞台に駆け寄る。
「……空席。演技。」 りんは短く呟く。心の奥では「誰もいなくても演じ続ける姿は痛々しくも美しい」と感じていた。
ミネルバは二人に視線を向けると、淡い笑みを浮かべた。 「役割とは、観客がいなくても続けるものだ。私は俳優である限り、演じ続ける。」
「ひゃーー!かっこいいよぉぉ!でもちょっと寂しいよぉぉ!」 なぎさは両手を振りながら叫ぶ。
「……役割。義務。」 りんは冷静に返す。心の奥では「自分たちもまた旅人として役割を演じている」と思った。
舞台の歯車が軋み、照明が一瞬だけ点滅した。まるで劇場そのものが二人に問いかけているようだった。
「ねぇねぇ!私たちも役割を演じてるんだよねぇぇ!旅人って役だよぉぉ!」 「……否定できない。」 りんは静かに答えた。心の奥では「だが役割に縛られることへの疑問」も芽生えていた。
こうして二人は、ミネルバの言葉を通じて「役割」と「自分」を考え始めた。
舞台の上で演じ続けるミネルバは、二人に向かって問いかけるように声を響かせた。 「役割とは、己を縛るものか。それとも己を支えるものか。」
「わぁぁぁ!なんか哲学的だよぉぉ!難しいけどかっこいいーー!」 なぎさは両手を広げて舞台に近づいた。
「……矛盾。」 りんは短く答える。心の奥では「役割は確かに支えにもなるが、同時に自由を奪う」と感じていた。
ミネルバは観客のいない席を指差し、声を強めた。 「私は俳優だ。観客がいなくても演じ続ける。それが私の存在理由だ。」
「ひゃーー!でも誰も見てないのに演じるなんて、ちょっと寂しいよぉぉ!」 なぎさは首をかしげる。
「……役割に囚われすぎ。」 りんは冷静に返す。心の奥では「自分たちもまた旅人という役割に囚われている」と思った。
ミネルバは二人を見つめ、静かに言った。 「お前たちも旅人という役を演じている。だが、その役を選んだのは誰だ?」
「わぁぁぁ!私たち自身だよぉぉ!だって旅したいんだもん!」 なぎさは笑顔で叫ぶ。
「……選択。自由。」 りんは短く呟いた。心の奥では「役割は強制ではなく、自分で選ぶものだ」と確信し始めていた。
舞台の歯車が軋む音の中で、ミネルバは二人に向かって最後の台詞を投げかけた。 「役割とは、己を縛るものでもあり、己を支えるものでもある。だが――選ぶのは自分だ。」
「わぁぁぁ!かっこいいよぉぉ!なんか心にズキューンってきたぁぁ!」 なぎさは胸に手を当てて叫ぶ。
「……選択。」 りんは短く答える。心の奥では「旅人という役割も、自分で選んだものだ」と強く感じていた。
ミネルバは観客のいない舞台で深々と一礼し、光の中に溶けていった。残されたのは、舞台に響いた言葉と、歯車の軋む音だけだった。
「ねぇねぇ!私たちも役を選んでるんだよねぇぇ!旅人って役を!」 「……肯定。」 りんは静かに頷いた。心の奥では「役割に囚われるのではなく、選び続けることが自由だ」と確信していた。
二人は劇場を後にし、歯車の音を背に歩き出した。舞台の残響は、彼らの心に「役割と自由」の問いを刻み込んでいた
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