雨は途切れることなく街を覆い、通りはさらに深く沈んでいた。電柱の半分以上が水面に隠れ、街灯の光は揺れる波に映って星のように瞬いている。
なぎさはスケッチブックを抱え、りんと並んで歩いていた。
「ねぇねぇ、また屋上に行こうよー！あそこ、秘密基地みたいで楽しいんだよー！」
「……危ないけど、見晴らしはいい」
りんは短く答え、フードを深くかぶって雨を避ける。
二人は濡れた階段を慎重に登り、屋上に出た。雨音が一層強く響き、街全体を見渡せるその場所は、沈みゆく世界の中で唯一開けた空間だった。
「わぁ……やっぱりすごいねぇ！街がぜーんぶ見えるよー！」
なぎさは両手を広げ、雨に濡れながら声を上げる。
りんは静かに隣に立ち、沈みゆく街を見下ろした。水面に揺れる光は幻想的で、どこか哀しい。
「……再会、か」
「そうだよー！ここに戻ってきたんだもん！また秘密基地だよー！」
なぎさの笑顔は雨に負けないほど明るく、りんの心に小さな灯をともしていた。
屋上の片隅には、前に見つけた壊れた傘と古いランタンがまだ残っていた。雨に濡れながらも、それは二人の「再会」を静かに証明していた。
屋上の片隅に腰を下ろすと、なぎさは濡れたスケッチブックを広げた。鉛筆を握りしめ、雨に揺れる街の光を描き始める。
「わー……水に映る光って、ほんと星みたいだねぇ！描いてみたら、夜空みたいになるかも！」
彼女は楽しそうに鉛筆を走らせるが、雨粒が紙に落ちて滲んでしまう。
りんはその様子を見て、静かに傘を広げて差し出した。
「……これで少しは濡れない」
「ありがとー！りんちゃん優しいねぇ！」
なぎさは笑顔で傘の下にスケッチブックを移し、描き続ける。
鉛筆の線は雨に揺れる街灯をなぞり、波に映る光を星のように散りばめていく。
「ねぇねぇ、りんちゃんも描いてみない？一緒に描いたらもっと楽しいよー！」
「……私は下手だ」
「いいのいいの！上手とか下手とか関係ないんだよー！」
なぎさは鉛筆を差し出し、りんは少し迷った後で受け取った。
りんは短い線を引き、街の輪郭を描き始める。無駄のない筆致で、沈みゆく建物の影を紙に刻む。
「……こんな感じだ」
「わぁ！すごい！りんちゃん、やっぱりセンスあるよー！」
なぎさは目を輝かせ、二人の絵は少しずつ重なり合っていった。
雨音に包まれた屋上で、少女たちの笑い声が響く。 沈みゆく街を背景に、二人のスケッチは確かに「再会の証」となっていた。
なぎさが描いていたスケッチブックのページが、突然の強い風に煽られた。
「きゃー！紙が飛んじゃうー！」
彼女は慌てて立ち上がり、屋根の上を滑る紙を追いかける。
りんは冷静に動き、飛ばされそうになった鉛筆やランタンを押さえた。
「……落ちるぞ、気をつけろ」
「でも、絵がぁー！」
なぎさは必死に手を伸ばすが、紙は屋根の端まで飛んでいく。
その瞬間、りんが素早く駆け寄り、紙を掴んだ。雨に濡れたページは破れそうになっていたが、彼女は慎重に持ち上げてなぎさに渡す。
「……ほら」
「ありがとー！りんちゃん、ナイスキャッチ！」
なぎさは笑顔で紙を抱きしめ、安心したように息をついた。
しかし、次の風で壊れた傘が倒れ、屋根の端へ転がっていった。
「わわっ！傘までー！」
二人は同時に走り、傘を拾い上げる。濡れた屋根で足を滑らせそうになりながらも、互いに支え合って踏ん張った。
「……危ない。けど、守れたな」
「うん！二人なら大丈夫だよー！」
なぎさは満面の笑みを浮かべ、りんは小さく目を細める。
雨音に包まれた屋上で、少女たちは小さなトラブルを乗り越えた。 それは沈みゆく街の中でも、確かな絆を育てる瞬間だった。
雨は途切れることなく屋上を叩き続けていた。けれど、その音は不思議と心を落ち着ける旋律になっていた。なぎさは濡れたスケッチブックを胸に抱え、りんの隣で空を見下ろす。
「ねぇねぇ、今日の絵は絶対宝物になるよー！だって、りんちゃんと一緒に描いたんだもん！」
「……大したものじゃない」
「そんなことないよー！二人で描いたから特別なんだよー！」
なぎさの声は雨音に負けないほど明るく響き、りんは小さく口元を緩めた。
屋上の隅には壊れた傘と古いランタンが並んでいた。役には立たないけれど、二人にとっては「秘密基地の証」だった。
雨音に包まれながら、その小さな空間は確かに特別な場所になっていた。
遠くで汽笛が鳴った。週末に走る安楽死列車の音。 それは世界の終わりを告げる合図であり、同時に少女たちの旅が次の舞台へ進む予兆でもあった。
沈みゆく街を見渡すと、さらに水位が上がり、通りの看板がほとんど水に隠れていた。
「……街が、変わっていく」
「でも、あたしたちも変わっていくんだよー！一緒にいれば、なんとかなるもん！」
なぎさの言葉は雨音に溶け込み、りんの心に確かな灯をともした。
その時、屋上の下から足音が聞こえた。 もみじの影が静かに近づいてくる。 少女たちの再会は、次なる物語の始まりを告げていた。
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