◀第27話:分岐する道、僕らの本当の強さを試すとき
▶第31章:まだ灯る希望、君は笑って僕を信じた
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第29話:ナギの胸の内、冷静な瞳の裏側で震える声
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学院の見晴らし台は、夕暮れと夜の境界に沈んでいた。 群青色の空に街灯が灯り、風が静かに吹き抜ける。
――こういう場所、あたしは嫌いじゃない。 静かで、考え事がしやすい。
……はずだったのに。
「ナギ、ここからの景色……綺麗だね」
隣でアリアが微笑む。 夕暮れの光に照らされた横顔が、妙に目に入る。
……いや、輝いてるって何よ。 自分で自分にツッコミを入れたくなる。
「ナギは、こういう場所よく来るの?」 「静かだからよ」
冷静に返したつもりなのに、声が少し硬い。 アリアは気づかず、風に髪を揺らしている。
その仕草が自然で、綺麗で、胸の奥がざわつく。
「ナギ、なんか考えてる?」 「別に」
即答した瞬間、自分でも“早い”と分かった。 アリアの視線から逃げるように夜景へ目を向ける。
胸の奥の“違和感”を、まだ認めたくなかった。
夜が深まり、見晴らし台の灯りが静かに揺れていた。 アリアは欄干にもたれ、遠くの街を眺めている。
「今日の訓練、ナギのおかげで助かったよ。 あの分析、すごく役に立った」
「仕事だからよ」
そう返したのに、胸の奥がじんわり熱くなる。 褒められて嬉しいとか、そんな単純な話じゃない。 もっとこう……説明しづらい感覚がある。
アリアはアイリスのことが好き。 それは知っているし、理解している。 だからこそ、今の自分の反応が扱いづらい。
「ナギって、いつも冷静だよね」 「そう見えるだけ」
アリアはくすっと笑う。 その笑顔が、胸の奥に刺さる。
――やめてよ。 そんな顔、反則でしょ。
「ナギってさ……誰かのこと、好きになったりするの?」
「っ……!」
心臓が跳ねた。 声が出ない。
「え? どうしたの?」 「……別に」
落ち着け、あたし。 なんでそんな質問で動揺してるのよ。
胸の奥のざわつきは、もう“違和感”じゃない。 もっとはっきりした、名前をつけてはいけない気がする感情に変わりつつあった。
夜の見晴らし台は、街の光が滲むほど静かだった。 アリアは欄干にもたれ、夜空を見上げている。
「ナギってさ……今日、なんか優しかったよね」
「いつも通りよ」
即答した瞬間、アリアがくすっと笑う。 その笑顔が、あたしの冷静さを削っていく。
「ナギが横で指示してくれると、すごく動きやすいんだ。 なんか……安心する」
「……そう」
短く返したのに、胸の奥がじんわり熱くなる。 視線をそらし、夜景へ逃げた。
「ナギって、あんまり自分のこと話さないよね」 「話す必要がないだけよ」
「でも、もっと話してくれたら嬉しいな」
……ちょっと待って。 それ、反則じゃない?
アリアは無自覚に距離を詰めてくる。 その無邪気さが、あたしの心をかき乱す。
「ナギ、顔赤いよ?」 「……気のせいよ」
否定した瞬間、自分でも分かるほど熱が上がっていた。 アリアは不思議そうに首をかしげる。
「ナギって、意外と可愛いところあるよね」
「……は?」
可愛い? あたしが? 何言ってるの、この子は。
アリアはくすくす笑っている。 その笑顔が、また胸を揺らす。
――ほんと、罪な子ね。 なんであたしがこんなに振り回されてるのよ。
でも、嫌じゃない。 むしろ……嬉しい。
その事実が、胸の奥で静かに形を成し始めていた。
「ナギ、さっきから静かだけど……大丈夫?」 「考え事してただけよ」
「ナギって、夜景好きなんだね」 「嫌いじゃないだけよ」
「そっか。なんか……ナギと一緒に見ると落ち着くなぁ」
「……は?」
その一言が、胸の奥に深く刺さる。 アリアは悪気なく言っているのが分かるからこそ、余計に苦しい。
「ナギって、頼りになるし……そばにいると安心するんだよね」
「……やめて」
「え?」
「そういうこと、簡単に言わないで」
アリアが驚いたように目を瞬かせる。 あたしは視線をそらし、夜空へ逃げた。
「……あたし、冷静じゃなくなるから」
言ってしまった。 アリアが不思議そうにこちらを見る。
「ナギが冷静じゃなくなるって……珍しいね」
「珍しいから困ってるのよ」
胸の奥がぎゅっと締めつけられる。 アリアはアイリスが好き。 それは変わらないし、あたしがどうこうできるものじゃない。
でも、アリアの笑顔を見るたびに、 声を聞くたびに、 名前を呼ばれるたびに、 胸の奥が揺れる。
――ああ、もう。 なんであたしがこんなに振り回されてるのよ。
でも、嫌じゃない。 むしろ……嬉しい。
その事実が、胸の奥で静かに形を成していく。
あたしは夜空を見上げ、そっと息を吐いた。
――ああ、そうか。 これが、恋ってやつなのね。
認めた瞬間、胸の奥が少し軽くなった。 でも同時に、苦しくもなる。
「ナギ、今日はありがとう。 一緒にいてくれて、なんか……落ち着いた」
「……別に。あたしが勝手に来ただけよ」
そう返したのに、アリアは嬉しそうに笑う。 その笑顔が、胸の奥をまた揺らす。
――ほんと、罪な子ね。
アリアはまだ、あたしの気持ちに気づいていない。 気づかなくていい。 今はまだ、この距離で十分。
でも、いつか。 この気持ちを隠しきれなくなる日が来るのかもしれない。
夜空には星が瞬き、風が静かに吹き抜ける。 あたしはそっと息を吐き、アリアの横顔を見つめた。
この気持ちは、きっと簡単には消えない。 むしろ、これからもっと強くなる。
――あたしは、どうするんだろう。
そんな問いだけが、夜の空気に溶けていった。
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第30章:マークが叫ぶ、その度に僕は前を向いた
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荒野の訓練場に、乾いた風が吹き抜けた。 砂煙が舞い上がり、視界の向こうで魔力の火花が散る。
――よし、今日も絶好調だ、俺!
胸の奥で勝手にファンファーレが鳴り響く。 いや、実際には鳴ってないけど、気持ちは完全に主役登場だ。 テンションが上がりすぎて、もはや自分でも制御不能である。
「マーク、前に出すぎ。まだ開始の合図すら出てない」
背後からアリアの冷静な声が飛んできた。 その声だけで、俺の背筋がシャキッと伸びる。
――ああ、今日もアリアさんは麗しい……!
いやいや、落ち着け俺。 戦闘前から心酔モード全開はさすがにどうかと思う。 でも仕方ない。アリアの魔法理論の美しさは、もはや芸術。
「マーク、聞いてる?」 「もちろんですともアリアさん! 俺はいつでも準備万端です!」
思わず敬語になってしまう。 ナギが横で小さくため息をついた。
「……始まる前からテンションMAXって、逆にすごいわね」
クロスは肩をすくめ、リンネは「がんばれー」とゆるく応援してくれる。 うん、優しい世界。
そんな中、訓練用魔獣が地面を揺らしながら姿を現した。 黒い外殻に赤い魔力の紋様。 見た目は物騒だが、訓練用なので本物ほど危険ではない……はず。
「よし、行くぞみんな! 俺が前で受け止める! アリアさん、後ろから魔力サポートお願いします!」
「……本来は僕が指示する側だ」
呆れたように言いながらも、アリアは杖を構える。 その姿に、俺のテンションはさらに上昇した。
――今日も俺は、アリアさんの背中を守る! いや、横でもいい! むしろ前でも!
そんな熱血が胸で爆発した瞬間、訓練開始の合図が響いた。
訓練用魔獣の第一波が砂煙を割って突進してきた。 その瞬間、俺の身体は勝手に前へ飛び出していた。
「よっしゃああああ来いッ!! 俺の筋肉が相手してやる!!」
「筋肉じゃなくて武器で戦いなさいよ!」 アリアの冷静なツッコミが飛ぶ。
分かってる、分かってるんだ。 でもこういうのは気持ちが大事なんだよ、アリアさん。
俺は大剣を構え、魔獣の突進を受け止める。 衝撃で足元の砂が滑るが、ここで下がるわけにはいかない。
「アリアさん、今です! 後方から魔力支援を!」
「言われなくても展開してる」
アリアの魔法陣が展開し、青白い光が俺の背中を包む。 身体が軽くなり、筋力が底上げされる感覚。 ――これだよ、これ! アリアさんの魔法は、いつだって俺を“最強の俺”にしてくれる。
「マーク、右からもう一体来るわよ」 ナギの冷静な声が飛ぶ。
「任せろ! 俺の右腕がうずくぜ!」
「うずかせないで戦ってくれ」 クロスが呆れた声で突っ込む。
俺は右へ跳び、迫る魔獣の爪を大剣で弾く。 砂煙が舞い、視界が白くかすむ。
「リンネ、後方の魔力弾、お願い!」 「はーい、いっくよー!」
リンネの魔力弾が飛び、俺の横をすり抜けて魔獣の足を撃ち抜いた。 その隙に俺は大剣を振り下ろす。
「おおおおおりゃああああ!!」
魔獣が地面に沈む。 砂煙の向こうで、アリアが小さく頷いた。
「前方三十度。次の群れが来る」
「了解です師匠!!」
「……師匠じゃない」
――よし、師匠ネタはここで一回目。
俺は大剣を構え直し、第二波へ向けて地面を蹴った。
第二波の魔獣が砂煙を割って迫ってくる。 その瞬間、俺の胸の奥で“熱血スイッチ”がカチッと入った。
「アリアさん! ここは俺に任せてください! あなたの教えを胸に、俺は今日も燃えています!!」
「……いつ教えたんだ、その“燃える”理論」
いや、違うんだアリアさん。 あなたの魔法講義は、俺にとっては全部“人生の教え”なんだよ。
「マーク、前に集中して」 「はい師匠!!」 「師匠じゃない」
よし、これで“師匠ネタ”二回目。 あと一回が勝負どころだ。
俺は魔獣の群れに向かって大剣を構えた。 アリアの魔力支援が背中に流れ込む。
その瞬間、 「今日も、背中が軽い。アリアさんの魔力だ。」
叫ばなくても分かる。 この感覚がある限り、俺は前に立てる。
「マーク、左から回り込んでくる」 「了解! 俺の左腕が――」 「うずかせないで戦ってくれって言ったよね?」 クロスのツッコミが飛ぶ。
「リンネ、援護射撃お願い!」 「はーい、いっくよー!」
リンネの魔力弾が飛び、俺の頭上をかすめて魔獣の肩を撃ち抜いた。 その隙に俺は大剣を振り下ろす。
「おおおおおりゃああああ!!」
魔獣が地面に沈む。 砂煙の向こうで、アリアが小さく頷いた。
「次の動きに合わせて魔力を調整する」 「了解です師匠!!」 「……訂正する気力がない」
アリアが小さく息を吐いた。 ほんの一瞬、笑ったようにも見えた。
――これが三回目。 “落ち”として完璧だ。
第二波の魔獣が一斉に吠え、荒野の空気が震えた。 砂煙が巻き上がり、視界が揺れる。 その中心へ、俺は迷いなく飛び込んだ。
「アリアさん! ここは俺が前で受け止めます! 後方からの魔力支援、よろしくお願いします!!」
「……僕が指示する側なんだけど」
アリアの冷静な声が背中に刺さる。 だがその声が、俺のテンションをさらに上げる。
「マーク、右から二体! 左から一体!」 ナギの分析が飛ぶ。
「了解! 俺の右腕と左腕が――」
「うずかせないで戦ってくれって言ったよね?」 クロスのツッコミが飛ぶ。
俺は右へ跳び、迫る魔獣の爪を大剣で弾く。 同時に左からの魔獣へ蹴りを叩き込み、距離を取る。
「リンネ、援護射撃お願い!」 「はーい、いっくよー!」
リンネの魔力弾が飛び、俺の頭上をかすめて魔獣の肩を撃ち抜いた。 その隙に俺は大剣を振り下ろす。
「おおおおおりゃああああ!!」
魔獣が地面に沈む。 砂煙の向こうで、アリアが小さく頷いた。
「次の動きに合わせて魔力を調整する」 「了解です師匠!!」 「……訂正する気力がない」
アリアの声は、さっきより少しだけ柔らかかった。
「よし、みんな! 一気に押し切るぞ!!」
俺たちの連携が噛み合い、魔獣の群れが次々と倒れていく。 戦況は一気にこちらへ傾いた。
最後の魔獣が砂煙の中へ崩れ落ちた瞬間、荒野に静寂が戻った。 風が吹き抜け、熱くなった身体を冷ましていく。
「ふぅ……終わったな!」
大剣を肩に担ぎながら振り返ると、アリアが杖を下ろしてこちらを見ていた。 その表情は、いつもの冷静さにほんの少しだけ柔らかさが混じっている。
「マーク、よく頑張った。無茶は……まあ、いつもよりは少なかった」
「アリアさんのサポートがあれば、俺は無敵ですから!!」
「……そういう意味じゃないんだけど」
アリアが額に手を当てる。 その仕草すら美しい。 いや、落ち着け俺。戦闘後だぞ。
「マーク、テンション高すぎて逆に心配になるわね」 ナギが呆れたように言う。
「でも、マークくんが前で頑張ってくれると助かるよー」 リンネがにこにこしながら手を振る。
「まあ、あれだけ騒がれたら敵も混乱するだろうしな」 クロスが肩をすくめる。
「褒めてます? それ褒めてますよね!?」
「褒めてないわよ」 「褒めてないよー」 「褒めてない」 「褒めてないな」
四方向から即答された。 だが、俺のテンションは下がらない。
――今日も何度も叫んだな。 喉が少し枯れている。
でも、胸の奥は不思議と軽かった。
――だって、今日もアリアさんの力になれた…… そんな気がしたから。
胸の奥に、じんわりとした充実感が広がる。 戦闘の疲れよりも、仲間と連携できた喜びの方が大きい。
そして、ふと胸の奥に小さな願いが芽生えた。
――いつかは、ただ叫ぶだけじゃなく、 本当にアリアさんを支えられる存在になりたい。
荒野に吹く風が、チームの笑い声をさらっていく。 今日の訓練は終わった。 でも、この活気はまだ続いていく。
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◀第27話:分岐する道、僕らの本当の強さを試すとき
▶第31章:まだ灯る希望、君は笑って僕を信じた
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