◀第26章「二本足の覚悟、ガムテープの絆」
▶第28章:「泥濘(ぬかるみ)を滑る鋼の揺りかご」
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第27章:「二度と離さないための連結」
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「……ゴ、ゴゴゴ……」
足元の世界が、まるで賞味期限切れの巨大怪獣のお腹みたいに不穏な唸り声を上げた。 雨は暴力的な質量を持って叩きつけられ、泥濘(ぬかるみ)はあたしたちの足首を媚びるように吸い込もうとする。 終末世界のくせに、こういう“プレイヤーへの嫌がらせイベント”だけは、本当に元気いっぱいなんだから。
「ひぃぃぃ! りんちゃん、これ、マシュマロの国が巨大ミキサーで“高速ホイップ”されちゃうレベルだよぉ!」
あたしは泥まみれのハルくんの右肩を支えながら、崩れかけたアスファルトの破片を必死に蹴り飛ばした。
 背後では、さっきハルくんを助けるために砕いたあの巨大な岩すら飲み込み、どす黒い濁流が街の残骸を咀嚼(そしゃく)しながら迫ってくる。
「……なぎさ、マシュマロは後でいい。重心を後ろに下げろ! 地盤の流動性が……事前の計算を超えている」
りんちゃんが泥に足を取られながら叫ぶ。 彼女の手の中で、真鍮の方位計の磁針は、おやつを前にしたあたしの尻尾みたいに狂った回転を続けていた。磁場異常。西の“黒い壁”の影響だ。
「わかってるけど、あたしの右足がね……『本日をもちまして閉店いたします』って看板を出したがってるの! 感覚どころか、もう足があるのかすら怪しいよぉ!」
「……勝手に閉店させるな。まだ高台まで距離がある。ハル、足を引きずるな! 断面係数を意識して耐えろ!」
りんちゃんの声は冷静なのに、焦りが滲んでいた。 その横で、ハルくんがまた“あの声”を出す。淡々とした、絶望の数式。
「……無駄です。僕の負傷した足の抗力と、背後の水の流速を計算に入れました。このままの速度では、三名とも生存確率〇・〇一%以下。僕を切り離すのが合理的――」
「ハルくん、今は算数の時間じゃないんだよぉ!」
あたしが叫び、無理やり彼の身体を引き寄せようとした、その瞬間だった。
バキキキキッ!!
世界が割れる音がした。 いや、実際に割れたのだ。 あたしたちが立っていた斜面のブロックが、まるでパズルのピースが抜け落ちるように、ごっそりと下流へスライドした。
「きゃあああっ!?」
視界が天地逆転する。 重力が消失し、次の瞬間に強烈な衝撃。 ハルくんの小さな身体が、慣性の法則に従って濁流の渦へ放り出される。
「ハルくん!!」
思考より先に、身体が動いた。 あたしは反射的に、右手に握りしめていた救助用ワイヤーの先端を、近くの鉄骨の突起に回し掛けた。 そして空いた左手を、宙に舞うハルくんへ突き出す。
ガッ!
衝撃が肩の関節を外しそうなほど走る。 泥が跳ね、冷たい雨が眼球を叩く。 左手には、ハルくんの手首の感触。右手には、命綱のワイヤー。 あたしは崩落寸前の崖の縁で、二つの命を繋ぐ“橋”になっていた。
「……っ、なぎさ! 止まれ、そこも崩れる!」
りんちゃんが襟首を掴もうと手を伸ばすが、彼女の足場も砂のように崩れていく。
「離さないよぉ! ここで離したら、あたしの“ワクワク人生”が後悔まみれの黒歴史ノートになっちゃうもん!」
あたしは斜面に腹ばいになりながら、必死に指に力を込めた。 絶対に、離さない。 そう、全身で叫んだはずだった。
「……っ……あ……」
その瞬間、あたしの左手に“終わった感”が走った。 ハルくんの手首を掴んでいる指先が、あたしの意志とは無関係に、電池切れのおもちゃみたいにピクッと痙攣(けいれん)したのだ。
(えっ……? 今の、あたしの指……生きてる? それとも辞表提出した?)
「……なぎさ? 腕が震えている。もっと引き寄せろ。そこは足場が完全に死んでいるぞ!」
りんちゃんが斜面の上から叫ぶ。 でも、違うの。 あたしの脳が「握れ! 砕けるまで握れ!」と怒鳴っても、指先はその命令を完全スルーしている。 感覚がない。 指が、自分の肉体じゃなくて、ただの冷たくて柔らかい“異物”に変質していくような、生理的な恐怖。
「りんちゃん……あたしの指……魔法で本物のマシュマロにされちゃったみたいだよぉ……」
恐怖をごまかすために軽口を叩こうとして、声が震えた。
「全然、力が……入らないの……」
限界だった。 昨日の怪我。連日の強行軍。そして今の衝撃。 あたしの握力は、アドレナリンの前借りをとうに使い果たし、完全に枯渇していた。
「……何だと? 脱水か……いや、あの時の神経圧迫か……!」
りんちゃんが、あたしの真っ白になった拳を見て絶句する。 その表情は冷静なのに、内側で「やめろ、折れるな、死ぬな」と叫んでいるのが痛いほど伝わってくる。
「……ほら。僕が予測した統計的な通りの展開です」
崖下で宙吊りになったハルくんが、水音にかき消されそうな声で淡々と言う。
「……なぎささんの指の筋肉組織は既に限界です。物理的に保持は不可能です。摩擦係数が低下し、滑り落ちるまで、あと数秒……。諦めてください」
その声は静かで、優しくて。 でも“死の宣告”みたいに正しくて、冷たかった。
「諦めない、よぉ……! あたしの指がダメなら、腕で……腕がダメなら、歯で噛んででも離さないんだから……っ!」
あたしは震える身体をワイヤーに押し付けた。 でも濡れた金属は無情にもズルリと滑り、皮膚が冷たい泥に引き戻される。 ハルくんの身体が、数センチ、下へ落ちる。
「……なぎさ、動くな! 下手に絡めれば、お前の腕の骨が自重で折れる!」
りんちゃんが駆け寄ろうとするが、新たな地割れが彼女を阻む。
(やばい……りんちゃんまで落ちちゃう……! そんなの絶対ダメ……!)
指先が、まるで“おやすみスイッチ”を押されたみたいに、一本、また一本と開いていく。
 涙が泥に落ちて、すぐに雨に溶けた。
「……落ち着け、なぎさ」
不意に、りんちゃんの声が雨音を切り裂いて響いた。 低く、重く、そして絶対的な響き。
「指が動かないなら……別の力学的な方法で固定するだけだ」
その声には、冷徹なまでの“修理者(エンジニア)”としての響きが戻っていた。 あたしの『人生のHP』がゼロになる前に、りんちゃんの頭脳が――また奇跡を叩き出そうとしていた。
「……諦めるのは、わたしの計算が完全にゼロになってからだ」
次の瞬間、あたしの頭上に影が差した。 泥まみれのりんちゃんが、足場の悪い斜面を滑り降りてきたのだ。 いや、それは“滑落”スレスレの制御された落下だった。 彼女はあたしのすぐ横の岩場に登山靴を叩き込んで制動をかけると、背負っていたリュックを乱暴に開いた。
取り出したのは、工具袋に入っていた予備のゴムパッキン。 そして――彼女は着ていた防滴ジャケットの袖にナイフを突き立て、迷いなく引き裂いた。
ビリッ、ビビリリィッ!!
(えっ……今、服破った……? りんちゃんのあの高いジャケット、そんな躊躇なく!?)
「りんちゃん、何するの? あたしのマシュマロ指を包帯で可愛くデコレーションしてくれるの?」
不安をごまかすために言ったら、りんちゃんの目が“本気で呆れたときのやつ”になった。 冷たい雨の中で、その瞳だけが熱を帯びて燃えている。
「……デコレーションなわけがあるか。よく見ろ。『命の綱』の製作だ」
りんちゃんは、あたしの死んだような左手に、自分の袖から作った布切れを巻き付けた。
 「なぎさ、痛くても声を上げるな。今からお前の手とワイヤー、そしてハルの腕を、物理的に“一体化”させる」
「一体化……!? それって、あたしとワイヤーが合体して、最強の“サイボーグなぎさ”になれるってこと!?」
「……アホなことを言っていないで、歯を食いしばれ! 摩擦係数を極限まで高めてやる!」
りんちゃんは一喝すると、あたしの左手とハルくんの手首を重ね、布切れで何重にも――まるで一つの生命体にするみたいに縛り上げた。 さらに、その上から黒いゴムパッキンを力任せに巻き付け、工具用ダクトテープでガチガチに固定していく。
ギュッ、ギュウウウゥッ!
締め付けられる圧力で、止まっていたはずの血流がドクンと暴れる。
「……っ、いったぁい! りんちゃん、これ締め付けすぎだよぉ! 腕がお刺身コースになっちゃう!」
「……緩ければ抜ける。泣いてもいいが、絶対に動かすな」
りんちゃんの手際は、残酷なほど正確だった。 ゴムの弾性とテープの粘着力。 それらを組み合わせ、あたしの「握力」という不確定な要素を、「材料力学」という絶対的な事実に置き換えていく。
「いいか、なぎさ。お前の指が動かなくても、この“即席補助具”があれば、腕全体の筋肉、背筋、体重すべてで引けるようになる。これがお前の執念を物理的に補強する、新しい“綱”だ」
りんちゃんの声は冷静で、でもその結び目の一つ一つに、“絶対に離さない”という呪いのような祈りが込められていた。
「……不合理です。そんなただの布切れとゴミのようなゴム片……十秒も荷重に耐えられませんよ」
崖下のハルくんが、震える声で異を唱える。
でも、りんちゃんは一切揺れなかった。 彼女は結び目の強度を指先で確認すると、あたしの背中に背中合わせになるようにぴったりと寄り添った。
「……十秒あれば、お前を引き上げるには十分すぎる。なぎさ、わたしの身体を支柱(アンカー)にしろ。二人で一本の折れない柱になる」
りんちゃんが背中越しに腕を伸ばし、あたしの腕ごとワイヤーをガッシリと抱え込む。
 その瞬間―― 背中に伝わる体温が、雨の冷たさを押し返した。 ドクン、ドクン。りんちゃんの心臓の音が、背骨を通してあたしに響いてくる。
「……え、りんちゃん……すっごく温かい」
「……気のせいだ。体温の共有による熱伝導率の維持に過ぎない」
素っ気ない言葉。 でも、震えていたあたしの芯が、その熱でカチリと定まるのが分かった。
「いくぞ、なぎさ。お前の“ワクワク”も“意地”も全部、この一本のワイヤーに乗せろ!」
「うん……!」
あたしたちが即興で作り上げた不格好な“命の綱”が、ギィ……と悲鳴を上げる。 ゴムが伸び、テープが軋む。 でも――滑らない。 あたしの動かないマシュマロの指の代わりに、りんちゃんの“技術”が、ハルくんの命をガッチリと捕まえていた。
(りんちゃん……あたし、まだ……いける……!)
「……いっ、けぇぇぇぇー!!」
あたしは残っている力という力を、脚と腰と、そしてりんちゃんと“合体”した腕に全部ぶち込んだ。 右足の傷が爆発したように痛む。 でも、その痛みさえも推力に変える。
足元のガレキの山が、不気味な吸引音を立てながら崩れていく。 濁流が舌なめずりをして迫る。
(やだやだやだ! 今日のメニューに“人間三点盛り”なんてないよぉ!)
でも、あたしの背中には――りんちゃんの確かな重みがあった。 孤独じゃない。一人じゃない。 だから、引ける!
「……あ……ああ……っ!」
ハルくんの身体が、泥の斜面からゆっくり――でも確実に浮き上がってくる。 あたしたちが作った“命の綱”は、ミシミシと断末魔のような音を立てながらも、絶望的な確率論を力ずくでねじ伏せていく。
「……信じられない。計算が……完全に狂っている……。どうして、そんなボロボロの布切れで……」
ハルくんの声が、恐怖ではなく“驚愕”で震え始める。
「ハルくん、計算なんてね……あたしたちが今ここで、力ずくで書き直してあげてるんだよぉ! りんちゃん、あと少しだよね!?」
「……喋るな。肺活量を全部、トルクに回せ! 地盤の最終崩落まで……あと十五秒……いや、十秒だ……っ!」
りんちゃんの腕に、これまで見たことのないほど血管が浮き上がっていた。 彼女の計算は、もう“諦めるため”のものじゃない。 “勝ち筋を通すため”のカウントダウンだ。
ズズズッ……!
最後の大きな揺れ。 あたしたちは咆哮(ほうこう)し、渾身の力でワイヤーを引き絞った。
泥だらけのハルくんの身体が、宙を舞い、岩棚の上へと転がり込んでくる。 それと同時だった。 あたしたちがさっきまで張り付いていた斜面が、まるで最初から存在しなかったかのように、凄まじい轟音とともに濁流へと消滅したのは。
水しぶきが舞い上がり、轟音が鼓膜を揺らす。 でも、あたしたちの腕の中には、確かに温かい重みが残っていた。
「……はぁ、はぁ、はぁ……っ!」
あたしはりんちゃんと重なり合ったまま、冷たい地面に突っ伏した。 ガチガチに固定された腕は、鬱血(うっけつ)してジンジンと痛むけれど、それは“生きている痛み”だった。
心の中は、久しぶりに最高級パフェを三つ一気食いした時みたいな、とてつもない満足感で満ちていた。
「……九八%。本来なら、全員が生存する確率は限りなくゼロに近かったはずなのに……」
ガレキの上で、ハルくんが真っ白な霧の空を呆然と見上げていた。
 泥にまみれた小さな身体は小刻みに震えているけれど、目は確かな光を宿している。 彼は震える手で、自分の胸元を探った。 そこから取り出されたのは――泥に汚れているのに、不思議と一箇所も破れていない、一冊のノートだった。
 「……あ、それ。ハルくんの宝物?」
呼吸を整えながら尋ねると、ハルくんは少し寂しそうに首を振った。
「……いいえ。中身は全部“白紙”です。いつか価値のあるデータを見つけたら書こうと思っていましたが……結局、何も書けないまま沈むところでした」
白紙のノート。 それは、大切な思い出の塊(スケッチブック)を失ったあたしの目に、不思議なほど眩しく、そして新しく映った。
(白紙……いいなぁ……。何もないってことは……)
「……白紙なら、これからいくらでも好きなことを書けるな」
りんちゃんが泥だらけの顔を拭いながら、あたしの思考を先読みしたように言った。 彼女は、あたしの腕に食い込んだままの不格好な“命の綱”を丁寧に解きながら、不敵に笑う。
「わたしたちが、その“価値”とやらを、一からDIYしてやる。お前の好きな確率も、計算式も、今日のことも、全部だ」
その笑顔は、雨の中でもちゃんと温かかった。 西の空には、まだ不気味な黒い雲が壁のように居座っている。 あの影は、きっとこれからの旅で何度も立ちはだかるんだろう。
でも―― あたしたちの手の中には、新しい仲間と、これから描き込める“真っ白な未来”が握られていた。
「よし、ハルくん! 次の冒険は、そのノートをあたしたちの色でいっぱいにすることに決定だよぉ!」
あたしは高らかに宣言した。 声は枯れていたし、全身ボロボロだけど、胸の奥は燃えるように熱かった。
濁流の轟音が遠ざかり、霧がゆっくりと薄れていく。 終末の世界はまだ泣いているけれど――あたしたちの物語は、ここから新しい旅の核心(まんなか)へと、静かに、でも力強く進み出した。
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あらすじ 崩壊寸前の斜面で、暴雨と濁流に追われながら三人は高台を目指すが、地盤は予測を超えて流動し、磁場異常も重なって方位計は狂い続けていた。 なぎさは泥まみれのハルを支え、りんは冷静に重心移動を指示するも、水流と負傷が合わさった条件下での生存確率は著しく低いとハルが算出する。 しかし崖面がパズルのように崩落し、ハルが濁流へ投げ出されるや、なぎさは救助用ワイヤーを鉄骨に回し掛け、左手でハルの手首を掴んで“橋”になる。 りんは足場の崩壊を警告しつつ接近するが、なぎさの握力は過労と神経圧迫で限界を迎え、指は命令に反応しない“マシュマロ”のような無力さに沈む。 合理を口にするハルは切り離しを促すが、なぎさは歯で噛んでも離さないと抗い、りんは別解を探すエンジニアの思考で“力学的固定”を即断する。 そこでりんは防滴ジャケットの袖をためらいなく裂き、予備のゴムパッキンと布を取り出して、材料力学に基づく“命の綱”の即席補助具を設計する。 なぎさの左手とハルの手首を重ねて布で幾重にも縛り、その上からゴムパッキンを巻き、ダクトテープで高摩擦かつ高拘束の一体化を実現する。 締め付けの痛みは強烈だが、りんは緩みは致命的だと断じ、握力という不確定要素を素材の弾性と粘着力という確定因子で置換していく。 さらにりんは自分の身体を支柱として背中合わせに固定し、二人の体重と背筋を合力化して、十秒で引き上げる勝ち筋を提示する。 冷雨の中で背中越しの体温がなぎさの芯を支え、二人のトルクは一本化したワイヤーに集約され、即席の綱は悲鳴を上げながらも滑りを封じ込める。 ハルは十秒の耐荷重を疑うが、りんは計算の眼を“諦めの算”から“勝利の算”へ切り替え、崩落までの残余時間を刻むカウントダウンに集中する。 なぎさは脚と腰のすべてを推力に変え、傷の痛みすらエネルギーに転化し、りんの重みを背で受け止めながらワイヤーを絞り上げる。 泥と濁流が三人を呑み込もうと迫るが、合力は絶望的な確率をねじ伏せ、ハルの身体は数センチずつ確実に斜面から浮き上がっていく。 「計算が狂っている」と驚愕するハルに、なぎさは「今ここで書き直している」と応じ、りんは「喋るな、肺活量をトルクへ」と最適配分を命じる。 最後の大揺れと同時に渾身の一引きが決まり、ハルは岩棚へ転がり込む一方、さきほどまで三人がいた斜面は轟音とともに濁流へ消滅する。 生の重みを腕に確かめながら三人は地面に伏し、鬱血の痛みが“生きている痛み”だと知る充足に、なぎさは極上パフェ級の満足を感じる。 ハルは本来ゼロに近いはずの生存確率が覆った事実に呆然としつつ、胸元から泥に汚れても一片も破れていない一冊の“白紙のノート”を取り出す。 それは価値あるデータを書き込むはずが何も記せなかった未来の器であり、なぎさには失われたスケッチブックの代わりに“まっさらな可能性”として映る。 りんは「白紙なら好きに書ける」と言い、今日の連結の記録も、確率や計算式も、これからの価値も、三人でDIYすると泥まみれの頬で不敵に笑う。 彼女は不格好な綱を丁寧に解きながら、技術が意思を延長し、意思が確率を更新するのだと、結び目に込めた“離さない祈り”を証明してみせる。 西空の黒い壁は依然として不吉に聳えるが、三人の手には新しい仲間と“これから書ける真っ白な未来”が確かに握られている。 なぎさは次の冒険の議題を白紙ノートに満たすことだと高らかに宣言し、枯れた声と満身創痍の身体に反して、胸の奥は燃えるように熱い。 濁流の轟音は遠のき、霧は薄れ、終末世界の泣き声の中でも三人の物語は核心へと静かに、だが確固として進み始める。 ここで重要なのは、極限状況において“握力の限界”を“摩擦と拘束の最適化”で代替し、個の力を支柱化と合力化で増幅した点である。 また、計算を止めたのではなく、条件更新に基づく“勝利の計算”へと目的関数を切り替え、制約下で最短の達成時間を刻んだ判断が勝機を開いた。 さらに、身体接触による熱と鼓動の共有が心理的動揺を減衰させ、運動出力の安定に寄与したことが、わずかな十数秒の窓を最大化した。 ハルにとって白紙のノートは“欠落”ではなく“開始”へと意味変換され、救出の事実が彼の合理の座標を共同行為の側へと連結し直す。 なぎさの軽口は恐怖の緩衝材でありつつ、りんの叱咤が行動の方向ベクトルを統一し、三者の役割は感情・設計・評価として有機的に噛み合った。 だからこそ、崩落と濁流の“嫌がらせイベント”は、連携と工夫で“突破イベント”へと反転し、統計の外側に新しい実績値が刻まれた。 連結とは手を繋ぐことだけでなく、意地と技術と計算を物理的に一体化し、二度と離さない構造に作り替える行為だと三人は学んだ。 その学びが次の試練に対する設計図となり、黒い壁の脅威を前にしても、白紙のページに“更新された確率”を記し続ける勇気へと変わる。 こうして三人は、生き延びたという事実を“連結の証拠”として胸に抱え、壊れゆく世界の只中で、確率と物語を自分たちの手で上書きしていく。 そして、雨上がりの空の下、彼らは互いの温度を確かめながら、白紙に最初の一行を刻むため、核心への一歩をそろえて踏み出した。
解説+感想めっちゃ良かった!!第27章、最高に熱くて、最高に「この3人好き」ってなる章だった。 特に刺さったポイント1. りんちゃんの「連結」がエグいほどカッコいい 服をビリビリに破って、即席で「命の綱」を作るシーンが本当に最高だった。
ただの布とゴムとテープで、なぎさの「握力」という不確定要素を「物理的に絶対に離さない」という事実へ変換する。 あの冷徹さと優しさと技術力が全部詰まった瞬間で、りんちゃんの魅力が爆発してた。
「指が動かないなら別の力学的な方法で固定するだけだ」ってセリフ、めっちゃ胸にきた。 2. なぎさの「離さない」執念が可愛くて強い いつもふわふわしてるなぎさが、指がマシュマロ化しても「歯で噛んででも離さない」とか言い出すギャップが最高に良かった。
彼女の明るさって、ただのポジティブじゃなくて「絶対に仲間を見捨てない」という強烈な意志の裏返しなんだなって、再確認できた。 3. ハルくんの変化の予感 白紙のノートが出てきた瞬間、鳥肌立った。
「何も書けないまま沈むところだった」ってセリフが重いのに、そこにりんちゃんが「わたしたちがDIYしてやる」と返す流れが完璧。
ハルくんが今まで「計算」でしか世界を見てこなかったのが、この3人といることで少しずつ「書く価値があるもの」に変わっていく予感がして、すごく好き。 4. シリアスとバカのバランスが神 崩落寸前の絶望的な状況で「マシュマロの国が巨大ミキサーで高速ホイップ」「サイボーグなぎさ」「お刺身コース」って挟んでくるセンスが本当に好き。
重くなりすぎず、でもちゃんと感情が伝わってくる。 読んでてずっと心臓バクバクしてたのに、最後は胸が熱くなって笑顔になった。 この章で完全に「二度と離さない」というタイトルが体現されてる。
物理的にも、精神的にも、3人が「連結」された瞬間だったと思う。 次どうなるかマジで楽しみ。
ハルくんのノートがこれからどんな色に染まっていくのか、めっちゃ見たい。 本当に良い章をありがとう! めっちゃ感動したよ!
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▶第28章:「泥濘(ぬかるみ)を滑る鋼の揺りかご」
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