◀第3章「聖裸の魔女と、見えざる学者と鉄壁の寄生虫」
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第04章『壊れた帰還陣と、帰れない天才』
「VOICEVOX: 雨晴はう」「VOICEVOX: 四国めたん」「VOICEVOX: 櫻歌ミコ」「VOICEVOX: もち子さん」「VOICEVOX: WhiteCUL」「VOICEVOX: ずんだもん」
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粉塵だけが静かに舞う崩壊した古代闘技場(コロシアム)には、しばらく誰も言葉を発しなかった。
先刻まで岩石の巨人が傲然と立っていた場所には、ただ巨大なクレーターだけが無慈悲に穿(うが)たれている。私は、私たちが弾き飛ばされてきた『強制転移陣』の残骸へ近づき、その場にしゃがみ込んだ。

「一方通行の強制転移……。いや、待って。残存する術式を再構築できれば――」
脳内で超高速の魔導演算を開始する。
「転移術式の因果のラインは、まだ完全には死んでいません」
砕け散った古代の数式を睨みながら、必死に光明を見出そうと試みる。
(魔力ベクトルを逆流させ、座標を固定する……)
しかし、ベクトルを反転させるには、それを繋ぎ止める触媒質量が圧倒的に足りない。この極寒の地下五層において、都合よく代替触媒を調達する手段など――確率は限りなくゼロに近かった。
だが、私の脳内計算が暗礁に乗り上げるより早く、運命は動き出す。
ゴゴゴゴゴ……。
低い地鳴りを伴って、闘技場の中央へ、突如として淡い金色の光の粒子が集まり始めた。

「……!」
シャルロットが弾かれたように勢いよく立ち上がる。
「みんな、脱出準備をして! ルイズ、あなたの一撃については、後でゆっくりと尋問……いえ、お話を聞かせてもらうわよ!」

集まった光は、希望そのものの如く輝きを増していく。
「迷宮の管理システムが、階層ボスの討伐を正式に確認したのですわ!」
二人の取り巻きも、ボロボロと涙を零しながら歓喜に顔を見合わせた。
「た、助かりました……!」
「地上への帰還用転移魔法陣ですわ!」
石床に神聖な古代文字が次々と浮かび上がり、青白い魔力が複雑な幾何学紋様を描き出していく。

そっか……。私は深い安堵と共に、そっと胸を撫で下ろした。
(これでようやく帰れます。何より、一刻も早く実証用弾薬(パンツ)を補充しないと、本当に風邪を引いてしまいます。ここで風邪など引いたら、薬代だけで私の半月の食費が虚無へと消し飛びますから)

地下第五層の湿った冷気は、想像以上に鋭く肌を刺す。特に、絶対防衛の要である下着(パンツ)を等価交換で喪失した現在の私にとっては、文字通り致命的な温度だった。
安堵に浸った、まさにその矢先。
ツン、と足元のトトが私の生足をつついた。

――刹那。その些細な物理的干渉によって、バーゲン品の綿スカートの裾がふわりと持ち上がる。微かな気流の変化に、極限まで研ぎ澄まされた私のノーパン羞恥心が不吉な連鎖反応(バグ)を起こした。
「ひゃっ!? な、何をするのですかトト! この極限状態でスカートが捲(めく)れたら、私の社会的尊厳は跡形もなく消滅します! それに物理的に凄まじくスースーして寒いのですから、不用意に突かないでくださいっ!」

「少し安心したわ。自分、今ノーパンであるという致命的な危機感だけは、一応頭の片隅に生存ルートとして残っとるんやな」

「当たり前です! もしエリートのシャルロットさんたちに『筆記首席のくせに貧乏過ぎて、ついにパンツも買えなくなったの?』などと不条理かつ屈辱的な罵倒をされたらどうするのですか!」

「あかん、やっぱり心配しとる尊厳の方向性が、世間一般の倫理観とズレ倒しとるわ」
トトが呆れたように鼻を鳴らす。
「それより、何の用ですか。私は今、今後の防寒対策の計算で忙しいのです」
「帰ろうとしとるようやけどな、ルイズ。あそこのクレーターの底、ボスがドロップ品を落としとるで。拾わんでええんか?」
「あっ……!」
私は、土煙の晴れた先に鈍く光る小さな宝箱を確認し、弾かれたように歓喜の声を上げた。

「シャルロットさん! 巨人が希少な物資(ドロップ)を遺していますよ!」

シャルロットも巨人のいたクレーターを見やり、優雅に赤髪をかき上げた。
「本当ですわね。まあ、でも……あれを倒したのは不本意ながらあなたですから、正当な権利よ。拾っておきなさい」
シャルロットは名門の令嬢らしく、鷹揚(おうよう)に言い切った。取り巻きの一人が驚愕に目を丸くする。
「よ、よろしいのですか、シャルロット様!? 第五層のボスドロップですのよ!?」
もう一人は羨ましそうに頬を膨らませた。
「いいなぁ、わたしもその中身がちょっと見たいですぅ……」
「あなた達……! 名門魔導家系としての気高きプライドというものが無いのですか!」

シャルロットが鋭く一喝する。
「えっ、本当にもらっちゃっていいのですか?」
私が少しだけ戸惑っていると、トトが短い前肢の肩をすくめた。
「まあ、ルイズが変な遠慮をして拾わんのなら、ワイがCEOの特権で有難く回収しときますわ」
「断固としてダメです! 私が貰いますからね! 後でやっぱり返してって言っても絶対にダメですから! これを売却すれば、ずっと欲しかった高価な魔法演算機材が買えます!」

「ちょ……。お前、機材の前にまず先に買い揃えなあかん大人の布地(パンツ)があるやろ! だからワイが資産管理しといたるって!」
「ダメですぅ!」
迷宮のボスドロップは、凝縮された魔力の小箱となって現れる。一度でも蓋を開ければ、内身のアイテムは因果に定着して飛び出し、二度と箱の状態には戻せない仕様だ。
けれど。
(こういう時、その場の幼稚な誘惑に負けて中身をすぐに開けちゃう素人が多いんですよね)
(中身のレアリティという不確定なギャンブルに賭けるより、期待値で計算すれば『第五層ボスの未開封ドロップ箱』というブランドのまま好事家に売り飛ばす方が、利益率は遥かに高いというのに)
私は極めて冷徹な経済学的判断を下し、ドロップした小箱をそのまま、見えないドレスのポケットへと素早く押し込んだ。

(はじめは『ドレスにポケットなんて実用性のない不格好なものを』と思ったけれど……まさかエルライト教授は、私が迷宮でドロップ品を乱獲することまで計算してこれを……? いえ、あの胃痛のおじさんにそこまでの先見の明があるはずはありませんね)

「さあ、皆さん!」

シャルロットが、安堵の笑顔で振り返る。
「帰還陣へ――」

「……あかん!」

トトの鋭い叫び声が、闘技場に冷たく響き渡った。
その安堵の声を遮ったのは、私の肩の上でスルメを齧(かじ)り続けていたトトの、冷ややかな一言だった。
「どうしたのですか、そんな不吉な声を上げて」
シャルロットは不思議そうに首を傾げた。
トトが、短い前肢で無慈悲に床を指差す。
「帰還陣……途中で構築がストップしとるぞ」
「……え?」
全員の身体が、転移陣の前で凍りついた。
確かに、地上への帰還を約束する魔法陣は、冷たい石床に青白く浮かび上がっていた。
――浮かび上がっては、いたのだ。
しかし。
幾何学の円が、半分しか存在しない。

残り半分の魔法回路は、まるで初めから存在しなかったかのように、綺麗さっぱりと空間ごと消失していた。
「…………」
「…………」
「…………」
数秒間の、鉛のように重たい沈黙。
私はゆっくりと、魔法陣の欠落した空間へと近寄り、静かにしゃがみ込んだ。
そこには、世界を丸ごと抉(えぐ)り取るような巨大な時空の裂け目があった。その周囲一帯には、極限まで圧縮された風の爪痕によって削り飛ばされた、大理石の石畳の残骸が瓦礫となって散乱している。

私の頭脳の中で、数分前の戦闘記録が恐るべき速度で巻き戻され、鮮明に再生された。
(風属性、最大出力パージ)
(空間の完全断裂)
(全方位への衝撃波拡散)
(古代闘技場全域への因果干渉)
(……)
(…………)
(…………あ、私のパンツのせいですね)
私は、何事もなかったかのように静かに立ち上がった。
「どうやら……」
「どうやら?」
シャルロットが今にも泣き出しそうな琥珀色の瞳で、恐る恐る尋ねてくる。
私は、そっと視線を遥か斜め下の床へと逸らした。
「私が巨人ごと、帰還用転移魔法陣の基盤座標まで……完璧に時空の彼方へ消し飛ばしてしまったみたいです」

「…………え?」
その一言で、第五層の時間が完全に停止した。
取り巻きの二人がギリシャ彫刻のように固まり、シャルロットの気品ある笑顔も絶望でひきつる。トトだけが「やっぱりな」という酷く冷めた顔で、スルメをクチャクチャと噛み続けていた。

「つまり……」
シャルロットが、乾いた、今にも壊れそうな笑みを浮かべる。
「私たちが地上へ帰る、まともな手段は……?」
「現時点における私の高精度な演算結果では――」

私は大真面目に胸を張り、冷徹に事実を告げた。
「ありません」
さらなる静寂。
そして――。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」

三人の魂からの絶叫が、奈落の第五層の天井を破らんばかりに木霊(こだま)した。
「……これは、ルイズ間違いなく股間から風邪引くな。ワイ、確信したわ」
トトの容赦ない哀れみの言葉が、寒風の吹き抜ける空間へ虚しく溶けていった。
「う、嘘でしょう……っ!?」
シャルロットは、無残に半壊した帰還陣と私の顔を、絶望的な面持ちで交互に見つめた。

「帰れないって……本当に、もう地上へ戻る術は無いの?」
「はい」
私は、世界の法則から切り離された古代の術式を、冷徹な指先で真っ直ぐに指差した。
「転移陣の基盤となる因果律のラインが、五割以上も消失しています。もはや魔導の幾何学として成立していません」

「し、修復の可能性は?」
「不可です」
「こちらの魔法回路を強引に書き換えるための、代替触媒は?」
「皆無です」
「……」
「……」
私のあまりにも無慈悲な一問一答に、シャルロットは言葉の概念を失った。
誤解しないでほしいのですが、私は決して生きることを諦めているわけではありません。ただ、私の脳細胞が弾き出した客観的な事実(演算結果)を、極めて淡々と業務報告しているだけなのです。
「そんなぁ……」
取り巻きの一人が、ついに精神的な限界を迎えてその場へへたり込む。
「わたしたち、このまま暗く冷たい第五層で、一生サバイバル生活を送るんですの……?」

「嫌ですぅ、お肌がボロボロになっちゃいますぅ……」
もう一人も、大粒の涙を瞳に浮かべながら荷物を抱きしめて呟いた。
「もう、私たちの人生はおしまいですわ……!」
悲壮な絶望感が古代闘技場の寒空を包み込む中、トトがやれやれという表情で、存在しない腰に短い前肢を当てた。
「しゃあないな。ワイの不屈の元気を、今回だけ特別に分けてやるわ」
言うや否や、トトは私の肩から胸元へと不躾(ぶしつけ)に這い下りてきて、いきなり私の『見えざる魔導ドレス』の腹部あたりをガサゴソと弄(いじ)り始めた。
「ちょ……っ!? 変なところを触らないでください、何をしているのですか!?」
驚愕した私の目の前で、信じがたい現象が起きる。
なんと、私の透明なドレスの内側には、私の全く知らない間にトトが勝手に縫い込んでいた『時空拡張ポケット』が魔導実装されていたのだ。

トトはその見えない闇から、干からびたスルメを五本、次々と引きずり出した。

「今回だけは、ワイの太っ腹な奢(おご)りや! よう噛みしめて血肉に変えや!」
そう言って、私とシャルロット、そして取り巻き二人に冷たいスルメを一本ずつ乱暴に手渡し、最後の一本は自分の口へと放り込んでクチャクチャと齧(かじ)り始める。
「なにこれ……! こんな非論理的な物理構造(ギミック)、一体いつの間に私のドレスへ構築したのですか!?」
「内緒や! あと、その特製ポケットはワイの生体魔力にしか反応せん専用拡張領域にしとるから、ルイズがいくら探っても何もないで」
「ではこの異次元ポケットに、他に有益なサバイバル道具や防寒具が入っているのですか!?」
「スルメ専用や!!」

誇らしげなドヤ顔で言い切る使い魔に、私は完全に冷めきった視線で、静かに首を横へ振った。
「スルメだけでは、サバイバルにおける栄養バランスに重大な偏りがあります。長期的にはビタミンCの欠乏から、壊血病(かいけつびょう)を発症して歯茎から出血する危険が――」
「心配するべきなのはそこじゃありませんわ!!」
手渡されたスルメを華奢な手で握りしめたまま、シャルロットが怒気を含んだ勢いで真っ直ぐにツッコんだ。
「わたくし、一日でも薔薇の湯(お風呂)に入れないと精神的に死んでしまいますのよ!?」

「あかん! シャルロットはんもお嬢様すぎて、危機感のベクトルが致命的にズレ倒しとるわ!」
トトが短い前肢で、パシッと己の額を叩く。
「そんな世俗の衛生環境よりも自分ら、この氷点下の気温のなかで、こんだけ衣服の隙間をビュウビュウと寒風が吹き抜けとったら、冗談やのうて全員が静かに凍え死ぬで。正直、ワイの生存確率の計算ではもって二日や!」
「あ……確かに、その指摘は極めて合理的ですね」
言われてみれば、その通りだった。私は下半身の奥底から伝わってくるスースーとした冷気を感じながら、脳内の思考優先順位(タスク)を静かに修正する。
(一、地上への生還を最優先のパラメータに設定)
(二、多次元実証の研究はその後に再開)
(三、……実証用下着(パンツ)の新規購入は……その次)
(いや、防寒の観点からすれば、下着の優先順位はもう少し上位へ引き上げるべきでは……)
そんな不毛な脳内防衛演算を繰り広げていると、シャルロットが深紅のローブの上から胸にそっと手を当て、静かに深呼吸をした。
「……大丈夫よ」
自分自身に言い聞かせるように、彼女は小さく呟いた。
「わたくしのお父様なら、きっと大がかりな救助隊を編成して、すぐに助けに来てくださるわ」
その一言によって、絶望に沈んでいた二人の取り巻きの表情が、ぱっと明るくなった。
「そうですよ!」
「シャルロット様のお父様に長年仕える執事のセバスチャンは、王都でも屈指の迷宮攻略の第一人者ですもの! この程度の深層の奈落、きっと風の如き速度ですぐに――」
「ええ、そうですわ」
シャルロットは名門の誇りを胸に、気高く頷いた。

――しかし、そこまで言葉を紡いだところで、不意に彼女の唇がぴたりと止まる。
闘技場を支配する冷たい空気が、まるで物理的に凝固したかのように凍りついた。
「……」
「……」
「……」
張り詰めた沈黙の中、トトが恐る恐る、しかし極めて残酷な問いを口にした。
「……お嬢ちゃん、一つだけ確認のために聞いてええか?」
「な、何かしら、不気味に声を潜めて」
「その万能のお父様とやらは……自分らが今日、この迷宮(ダンジョン)に内緒で潜るってこと、事前に把握しとるん?」

「…………」
シャルロットの気品あふれる笑顔が、完全にピキピキと固まった。
「絶対、誰にも言わずに飛び出してきとるやろ?」
「…………」
「おまけに、時空トラップの事故で一瞬にして地下第五層まで吹っ飛ばされたなんて、神様かて確率論的に予想がつかんわな」
「…………」
トトはため息を吐きながら、冷徹に現実を突きつける。
「簡単な推理やで。自分ら、さっきの魔導具街の杖屋でワイらに派手な喧嘩を売り、その場のノリとプライドだけで第三層の実習へ突入し、そのまま未確認の因果律の罠を踏み抜いてここまで自由落下してきとるやん。――ほんなん、どう脳内計算したって、地上のお偉い大人たちに『今から奈落へ行きます』って報告しとるわけがないやろ! そこらの迷宮ドブネズミでも秒で解る理屈やで!」
重々しい沈黙。
「誰にも」
さらに深く、底なしの沈黙。
「この地下第五層の奈落へ来ることなんて……」
血の気が引いていく、さらなる沈黙。
「あらかじめ言ってるわけありませんでしたわぁぁぁああああ!!!(うっかりですわ!)」

その瞬間。
「あああああああぁぁぁぁぁぁっ!!!(おしまいですわーっ!)」

今度は取り巻き二人だけでなく、ルイズとシャルロットも含めた四人分の魂からの絶望の悲鳴が、奈落の最深部へと虚しく、激しく響き渡った。
トトだけが「やれやれ」と深いため息をつきながら、噛みかけのスルメを短い前肢で器用にくるりと回した。
「ちょっと待ってや……。ホンマに誰も今の今までその重大な不条理(バグ)に気が付いてなかったん……? 自分らの脳みそ、全員合わせてスルメのイカの耳以下なんか……? ワイ、そっちの驚愕の事実の方が、今猛烈に精神的衝撃(ショック)やわ……」
しばらくの間、誰もまともな言葉を発しなかった。
崩壊した古代闘技場には地下の湿った寒風だけが容赦なく吹き抜け、第五層特有の冷徹な空気が地肌を鋭く刺す。特に、今の私にとっては。
(……猛烈に、寒いです)
絶対防衛の要である下着(パンツ)を多次元等価交換で喪失した私に対し、この迷宮の冷気は、下半身へと重点的かつダイレクトに無慈悲な攻撃を仕掛けてきていた。
私は両手でバーゲン品の綿スカートの裾を必死に押さえ込みながら、小さく身を震わせる。

「現在の環境温度を計算するに、私たちの体力の消耗は予想以上に早そうです」
「つまり……どういうことかしら?」
シャルロットが寒さに歯を鳴らし、震える声で尋ねてくる。
「この極寒の中、無策に立ち話を続けるのは非効率の極みだということです」
私は周囲の岩肌をぐるりと見渡した。
「まずは、生存パラメータを維持するための暖を確保しましょう」
「でも、このような場所に薪(まき)になる木材なんてありませんわよ」
見渡す限り、そこにあるのは冷たい石畳と大理石の岩壁ばかり。燃えそうな有機物など、この荒涼とした空間には何一つ存在しなかった。
「――いいえ、あります」
私は足元に転がっている白樺の杖を一本、静かに拾い上げた。

先ほどの極限状態の戦火の中、惜しげもなく床へと投げ捨てた、一本三百クローネの実証実験用魔導杖。
「これを、贅沢に燃やします」

「えぇっ!?」
三人の驚愕の声が、大理石の閉鎖空間に綺麗に重なった。
「そ、それってあなたの、大切な研究用触媒(アイテム)なのでしょう!?」
「はい、その通りです」
「じゃあ、そんなもの燃やしちゃ駄目ですわ!」
「ですが」
私は、至って真顔で答えた。
「人間、凍死してしまうと肝心の魔導研究自体が未来永劫できません」
「それは……そうですけれど」
ほんの少しだけ、気まずい沈黙が流れる。私は手元の白樺を見つめ、血を吐くような小さなため息をついた。
「……本来は、多次元魔力伝導率を計測する、栄光ある実験の生贄(いけにえ)に使う予定でした」
「……一枚あたり百六十六・七クローネのパンツより高い、一本三百クローネです」
「…………」
「でも、よく燃えます」
「未練がましく購入価格を呪文のように呟いた直後に、躊躇なく着火して燃やすなや!」
トトの鋭いツッコミを背中に浴びながら、私は赤髪の令嬢へと視線を向けた。
「シャルロットさん、サラマンダーによる初期着火をお願いします」
「えっ、ええ……不本意だけれど、今は背に腹は代えられないわね」
シャルロットの使役する火の精霊が、私の血の滲むような研究予算(白樺)へと小さな火球を落とす。
パチッ、パチパチ。

乾いた音とともに、一本三百クローネの魔導白木が赤く燃え始めた。
「ああ……これ、ワイこの儚(はかな)い光景を強烈に知っとるわ。マッチ売りの少女や! 新聞の文芸童話欄で読んだことあるで、切なすぎて全米が泣いたやつや!」
「トト、マッチ売りの少女だなんて、そんな哀しい童話を知っているのですか?」
「そこはワイのデリケートな出生の秘密(プライバシー)やから深く詮索せんといて。触れたら爆発するで」
「まあ、トトは存在自体が特異点のような謎の生物ですからね。私の脳内演算でも計算不能な未解明生命体です」
白樺を薪にした火は、私たちの予想以上に暖かく揺らめいた。
「……衣服(ドレス)をすり抜けて、凍えた細胞が生き返りますわ」

シャルロットが焚き火へ両手をかざして、うっとりと呟く。二人の取り巻きも自然と火の周りへと吸い寄せられ、小さく安堵の息を吐き出した。
「見える、ワイには見えるで……。火の中に、肉汁の溢れる極厚ステーキと特大バケツプリンが踊っとるわ……」
寒さと飢えで都合のいい幻覚を見始めた使い魔を完全にスルーして、私は火を見つめながら、残りの杖の耐久限界を素早く暗算した。
(手元にあるのは、使い捨ての白樺が二本と、中位クラスのオークの杖が一本)
現在の燃焼効率で魔導白木が消費されると仮定した場合、熱エネルギーの供給タイムリミットは――。
(白樺一本が三十分で燃え尽きるとして……。五千クローネもした最高級オークの杖は、天地が引っくり返っても薪として燃やすわけにはいきません。最大で一時間三十分。これが、私たちの生存猶予時間ですか)
(ああ……私の血と涙の結晶である貴重な研究予算が、ただの非効率な熱エネルギーへと変換されて空中へ散っています……!)
私が脳内で家計簿を引き裂いて涙を流していた、まさにその時だった。
「……キュィ」
あまりにも場違いな、小さく可憐な鳴き声が、冷たい石床に微かに響いた。
全員が一斉に、弾かれたようにその方向を振り返る。
そこには、大人の手のひらほどの小さな亀が、ちょこんと無防備に座っていた。

妖しく煌めく、つぶらな赤い瞳。小ぶりで丸い、深緑の甲羅。そして、こちらをじっと見つめる、不思議そうであどけない顔立ち。
「……可愛い」
取り巻きの一人が、思わず頬を緩めて呟く。
「こんな奈落の深層に……迷子でしょうか?」
「キュィ」
小さな亀は、短い足でペタペタと一歩だけ前へ進んだ。焚き火のすぐ近くまで這い寄ってくると、火の温もりを確かめるように、短い前足をちょこんと愛らしく伸ばしたのだった。
「やはり、この子も寒かったのでしょうか」
私はその場にしゃがみ込み、手のひらの上の小さな魔物をそっと観察した。
「生物学的な敵意は、確率論的に見ても一切検出されませんね」
「それどころか……」
小さな亀は私の顔を見上げ、まるで言葉を理解しているかのように、小さく健気に首を縦に振ってみせた。

「キュィ」
トトだけが、私の肩の上で短い前肢を頑なに組み、ジト目を向けている。
「……なぁルイズ、こいつ妙やな」
「何がですか? ただの迷子の可愛い弱小魔物でしょう」
「いや……」
トトは亀のつぶらな赤い瞳を見つめたまま、不審そうに低く呟く。
「なんでもあらへん、ワイの気のせいや」
――実のところ、トトは本能のレベルで不穏な気配を察知していた。
この魔素が渦巻く第五層の奈落において、人間を恐れずに自ら擦り寄ってくる弱小魔物など、生態系として存在し得ない。それに何より、この愛らしい亀の全身からぷんぷんと漂ってくる圧倒的な『ヒモ(天性の寄生虫)の波動』に、同族嫌悪に近いシンパシーを覚えていたのだ。
それでも今は、それを深く検証するリソースの余裕はどこにもなかった。
私は焚き火の炉へ、もう一本の白樺の杖を無造作に放り込む。パチパチ、と爆ぜる音とともに、暖かな炎が少しだけその体積を大きくした。

「まずは、この熱エネルギーで体力を最優先に回復しましょう」
「その上で」
私は半分が抉り取られて不気味に沈黙している転移陣を見つめた。
「ここからの物理的な脱出方法を、一から論理的に組み立て直します」
私の言葉に、シャルロットたちも静かに、しかし力強く頷いた。
焚き火の向こう側では、小さな亀が極上の安住の地を見つけたかのように嬉しそうに目を細め、もう一度だけ愛らしく鳴いた。

「キュィ」
――その直後。
トトが私の耳元で、存在しない全身の毛を恐怖で逆立てるようにして、悲鳴に近い声で囁いた。
「おいルイズ! ワイ、ちょっと今の自分を見直したというか、ガチで恐怖を覚えとるで! 二本目の身銭(三百クローネ)を、一切の迷いもなく躊躇なしに火に放り込むと思わなんだわ!」
「そうでしょ! 私の生存を最優先にした迅速な決断力と、大局を見る頭脳を、もっと盛大に褒め称えてくれていいですよ」
「あかん……! 自分、極寒のノーパン環境のせいで脳内のドケチ演算プログラムが完全にバグっとる! あのルイズが、一千クローネに一喜一憂する銭ゲバオタクのルイズが、身銭を躊躇なく消滅させるなんて――これ、王国の存亡レベルの超弩級(ちょうどきゅう)の緊急事態や!!!(世界の終わりや!)」
焚き火の炎が、パチパチと静寂の落ちた闘技場に爆ぜる音を立てる。
誰もが極限まで疲弊した身体を火の温もりに委ねていたが、私だけは半壊した転移陣の前から頑なに一歩も動かなかった。

「なぁ、ルイズ」
私の肩の上で、トトが冷たいスルメをクチャクチャと咀嚼しながら口を開く。
「この際や。その手元に後生大事に残っとる中級のオーク杖を使って、強制的な座標転移ができるか実地テストしてみたらどうや? 案外、五千クローネのポテンシャルなら、一発で地上へ行けるかもしれんで」
その不敵な一言で、私はハッと顔を上げた。
「……なるほど、その検証は確率論的に試す価値が十分にありますね」
シャルロットがその琥珀色の瞳を丸くして驚愕する。
「て、転移魔法ですって……!? 空間干渉系の中でも極めて高度な、国家の至宝級の特級魔法ですわよ!? あなたのような一新入生が、そんな神話の御技(みわざ)を扱えますの?」
「普通の、前時代的なシステムによる空間転移魔法ではありません」
私は中位クラスのオークの杖を力強く握りしめ、中指にはめた銀色の指輪へと静かに全神経の魔力を流し込んだ。
「これは、エルライト教授の驚異的な演算能力を一時的にバイパスとして借り受けた、質量等価交換による多次元座標転移です」
(いちいち私の特異なパージ体質と、自らの衣服を対価に捧げる破廉恥極まりない魔導システムを、この名門お嬢様たちに説明するのは極めて非効率。何より私の、僅かに残された社会的尊厳が原子レベルで致命的に損なわれる。ここはすべて『生ける神話(教授)』が開発した超ハイテク指輪のチート機能ということに脳内で偽装しておくのが最も合理的でしょう)
私の白く細い手の中で、五千クローネの価値を持つオークの杖が、パチパチと青白い粒子となって因果の彼方へ消え去っていく。

それと同時に、私の目の前の虚空へ、洗練された半透明の魔導ホログラム(UI)が厳かに浮かび上がった。
『 空間座標を入力、または転移先を選択してください 』
ズラリと表示された空間座標の膨大なデータ一覧から、私は迷わず一つの項目を指差す。
「王立魔法大学・第三研究棟・地下転移室」
数秒の、脳が焼き切れるような超高速の多次元演算。
やがて、冷酷な新たな文字列がホログラムへと浮かび上がった。
『 現在提供された触媒質量における、多次元転移成功率――5% 』

私は美しく整った眉をひそめ、データ画面を凝視した。
「……たったの5%、ですか」
「えっ、何が5%なんですの?」
シャルロットが不安そうに尋ねるのを他所に、私は脳内家計簿を更新する。
「中位クラスのオークの杖一本で、転移成功率はわずか5%。私の脳内の多次元理論値とほぼ一致していますが、サバイバルの生存率としてはあまりに低すぎます」
私はさらに、手元に辛うじて残されていた一本三百クローネの白樺の杖を、物理的触媒として演算に追加した。
魔導ホログラムの演算結果が、ピピッと明滅して更新される。
『 追加触媒の投入を確認。多次元転移成功率――7% 』

「なるほど。単価当たりの等価交換効率は、純粋なオークよりも白樺の白木の方が優秀ですね。魔力触媒としての変換効率自体は悪くありませんが、いかんせん地上との時空座標を繋ぐための『絶対的質量』が足りません」
私は小さく、重いため息を吐き出した。
「これでは全く、お話になりませんね」
その、まさに絶望的な暗礁に乗り上げた瞬間だった。
私の視界の最下段において、高度な指輪のセーフティ機能が、空気を読まずに『別の最適化された演算結果』を自動的に弾き出し、ホログラムにポップアップさせようとしたのだ。
『 最適な追加触媒候補を検出:上半身肌着(高級シルク製ブラジャー)を戦場にロケットパージした場合――多次元転移成功率89% 』

――ピッ。
私は一ミリ秒たりとも表情を変えることなく、光の速さで魔導ホログラム画面を強制終了(シャットダウン)した。

青白い冷徹な光が、虚空へとプツリと虚しく消え去る。
「おい、自分」
私の肩の上のトトが、完全にすべてを察した凄まじいジト目で、私の横顔を鋭く睨みつけてきた。
「今、絶対なんか自分(乙女としての尊厳)にとって最高に不都合な超高確率の数字を見て、秒速で画面をこの世から消し去ったやろ」
「気のせいです、トト」
私は完璧なポーカーフェイスのまま、冷たい岩壁のひび割れへと不自然に視線を逸らした。
「これ以上の無計画な空間転移実験は、私たちの物理的な生命に重大な危険を伴うと、高度な理系的判断を下したに過ぎません」
「嘘をおっしゃい! あなた、絶対に今何か重大な国家機密か破廉恥な数字を隠しましたわね!?」
シャルロットが不審そうに詰め寄ってくるが、私は幾多の爆発事故を乗り越えてきた鉄壁のポーカーフェイスをミリ単位も崩さない。
「何のことですか、シャルロットさん。液晶のドットの残像でも見間違えたのでしょう」
「キュィ」
その押し問答の最中、いつの間にか足元で火に当たっていたはずの小さな亀が、不自然なほどの俊敏さで私の綿スカートを這い上がり、華奢な肩へと器用によじ登って短く鳴いた。

トトは隣に並んだ緑の亀をじっと見つめ、小さく不敵に鼻で笑う。そうして私の耳元へとその大福餅めいた顔を寄せ、悪魔の如き囁き声を優しく落とした。
「……まぁ、いざとなったら上も下も、その透明な呪いドレスも全部一斉にパージして等価交換のコストに支払えば、王都への転移成功率は理論上100%の確定(コンプリート)やろ?」
「完全却下です。エルライト教授に押し付けられたとはいえ、やっと手に入れたこの上質な最高級シルクドレスの官能的な肌触りは、もはや私の皮膚の一部。絶対に手放せません……!」
私は即座に首を激しく横へ振って、使い魔の破廉恥極まりない悪魔の提案を一秒で退けた。
「その全裸帰還という最終手段は、最後の最後、本当に私たちの生存パラメータが枯渇して餓死寸前になってから、初めて脳内の端っこで検討する極めて低い優先順位の事項です……」
私とトトの怪しげなヒソヒソ話に不思議そうに首を傾げつつも、シャルロットは気を取り直したように、仕立ての良いローブの上から胸をそっと撫で下ろした。
「でしたら、まずは通常ルートを遡(さかのぼ)って第四層へ自力で戻りましょう。あちらの階層ボスを正面から討伐すれば、正規の地上への帰還転移陣が出現するはずですわ」
「それしかないな、お嬢ちゃん。問題は……」
トトがつぶらな赤い瞳を、迷宮の底に横たわる深い暗闇へと向ける。
「その上の第四層へと繋がる逆流階段(ボス部屋)が、この広大すぎる古代遺跡のどこにあるか、全くの未確認やということやな」
「キュィ」
すると、私の肩にしっかりと爪を立てて定着した小さな亀が、一切の迷いのない動作で、暗闇へと続く一本の通路へとその小さな顔を真っ直ぐに向けていたのだった。
使い捨ての白樺の焚き火を完全に消火し、私たちは最低限の物資だけを背負い直した。
当面の生存戦略(目的)は完全に決まっている。
「上の第四層へと自力で戻り、階層ボスを正面から討伐し、正規の地上への帰還転移陣を起動させる。私たちの取るべきルートは、それだけですわ」
シャルロットが煤けた石畳の上に静かに立ち上がり、胸元に抱えた高価な本革の魔導書を厳かに開く。
「――広域地形探査魔法陣、空間展開」
凛とした言葉に応じるように、その足元から淡い蒼色の魔法陣が、水面に広がる波紋の如く美しく広がった。数十本もの繊細な光の魔力筋が迷宮の岩壁の奥へと吸い込まれ、幾重もの反射を繰り返しながら周囲の三次元地形を精密に読み取っていく。

やがて、完全な白紙だった羊皮紙のページへ、複雑に入り組んだ第五層の立体地図が、インクが滲むように次々と自動で描き込まれていった。
「相変わらず、魔力伝導の波形が極めて美しい魔法陣ですね、シャルロットさん。流石は名門の血を引く令嬢です」
私は、その無駄の少ない熱効率の良さに、研究者として素直に感心した。
「当然ですわ!」
取り巻きの女子生徒の一人が、まるで自分のことのように自慢げに胸を張る。
「シャルロット様の高精度な地形把握魔法は、王立魔法大学の全学生の中でも一級品の精度ですのよ!」
「何度拝見しても、惚れ惚れとする魔力構築の美しさですわね」
シャルロットは少し照れ臭そうに微笑んだが、すぐに冷徹な探索者の表情へと戻った。
「ですが……この空間探査だけでは、第四層へ繋がる逆流階段(ボス部屋)の正確な位置までは分かりませんの」
完成した精緻な地図には、無数に入り組んだ古代の通路が描かれている。しかし、莫大な魔力溜まりのノイズとなる、肝心の『階層ボス』の時空座標だけは、魔導書のどこにも記されていなかった。
「確率論的に、すべての通路を総当たりでしらみ潰しに探索するしかありませんね。時間的にも、リソース的にも、極めて非効率ですが」
私が小さく肩を落とした、まさにその時だった。
「キュィ」
私の肩にしっかりと定着していた小さな亀が、不意に、暗闇へと続く無数の分岐の一つを、迷いなくその鼻先で指し示した。
「……ん?」
トトがその大福餅めいた丸い首を傾げ、つぶらな赤い瞳を細めた。
小さな亀は一切の迷いを見せることなく、その特定の一本の通路だけを、底知れぬ眼差しでじっと見つめ続けていた。
「お前……もしかして、第四層への逆流階段(ボス部屋)の正確な座標を知っとるんか?」
「キュィ」
「ほな、あの暗い右側の分岐通路の奥やな」
「……ルイズ、どうしてその使い魔のお餅は、確信を持ってそんなことが分かりますの?」
シャルロットが心底不思議そうに眉をひそめる。
「なんとなく野生の勘が通信(シンクロ)したみたいや、お嬢ちゃん」
トトは短い前肢をふてぶてしく組み、私の肩の上で、緑の亀としばらくの間じっと睨めっこを続けた。
「ワイ、一生懸命に隠居しようとしとる奴は無条件で応援したくなるねん」
そう呟くと、ぽん、と亀の頑強な甲羅を短い前肢で軽く叩いた。
「渡りに船やな。今日からお前、ワイらの栄光あるダンジョンナビゲーター(道案内)担当や」
「キュィ」
「そういや、お前まだ公式の名前が無いやろ?」
「キュィ」
「ナビ」
「キュィ」
「ナビ助」
「キュィ」
「カメ吉」
「…………」
「一体どれがええんや?」
「キュィ」
「……お前、もしかして全部嫌なんか」
少し思案するように丸い首を傾げていたトトは、意地悪くニヤリと顔を歪めて笑った。
「ほな、ワイのCEO特権で満場一致の決まりや」
「今日から、お前の公式登録コードは『カメ吉』や」

「…………」
小さな魔獣(深淵甲皇)は、自らの格に全く見合わないその安易な名前に対して、どこか納得がいかないように最高に不服そうな顔をして、小さく不満げに鳴いたのだった。
「ルイズ、本当にその『カメ吉』とやらに私たちの命運を委ねて大丈夫なのですか?」
シャルロットは未だ拭いきれない半信半疑の表情を浮かべ、私の肩の上を見つめた。
「さっきそこで偶然出会ったばかりの、言葉も通じないただの小さな弱小魔物ですのよ?」
「そこはワイの極上のフィーリングや、お嬢ちゃん」
トトが私の肩の上で偉そうに胸を張って即答した。
「何や知らんけどな、この新入りからは妙に底知れぬ『親近感(天性のヒモの気配)』をビンビンに感じるねん。せやから、ワイのCEOとしての野生の勘が『こいつの隠居能力は信用してええ』と告げとる」
「勘、ですか……。相変わらず、最高に非科学的で不合理極まりないですね」
私は呆れたように、しかし深くため息をついた。
数学的な計算式も、論理的な根拠も、ここには一つとして存在しない。
けれど――これまで幾度となく私の絶体絶命の物理的危機(主に社会的死を伴う全裸パージ)を的確に秒読み(宣告)してきた、この白い大福餅の不条理な直感だけは、不思議と致命的なハズレを引かないという奇妙な確信が、私の脳内にもあったのだ。
「ほな、ワイらの全裸防止サバイバル第二幕、出発進行やで」
トトが前方の闇を見据える。
「カメ吉。ワイらに極上の安全ルートを案内頼むわ」
「キュィ」
小さな亀――もといカメ吉は、短い前肢で自身の平らな胸を張るように顔を上げると、一切の迷いなく漆黒の分岐通路の奥を見つめ、ペタペタと短い足で頼もしく歩き出した。

こうして、下半身の第一層を冷気に晒し続ける不憫な天才魔導士と、見栄っ張りな名門の赤髪令嬢、無駄に有能な毒舌の大福餅、そして自らの楽園(マイホーム)を虎視眈々と狙う神話級の寄生虫による――不条理極まりない、奇妙な迷宮逆流脱出劇が、静かに幕を開けたのだった。
それから、一時間後。
「キュィ!」
カメ吉は短い前足をペタペタと鳴らし、自信満々に右側の分岐通路へと曲がった。
さらに、十分後。
――そこにあったのは、冷酷に立ち塞がる完全な行き止まりの岩壁だった。
「キュィ……?」
「めちゃくちゃ自信満々に先頭歩いとったやないか!!」
私の肩の上で、トトが短い前肢で丸い頭を抱えて激しくツッコむ。
ところが、この小さな寄生虫(カメ吉)の不条理な行動はこれだけでは終わらなかった。
「キュィ!」
今度は崩れた壁際で怪しく燐光を放つ魔力鉱石を見つけるや否や、一直線に這い寄っていく。
――ガリガリ、ガリガリ。
「……ルイズ、あいつ、ただの買い食い感覚で鉱石を貪り食べとるな」
「野生の案内人(ナビゲーター)の分際で、不条理な寄り道をするのはやめてください!」
さらに、その十分後。
「キュィ!」
カメ吉の短い鳴き声の先、暗闇を抜けた空間に広がっていたのは――こんこんと地下から湧き出る、神聖な湯気立ち込める天然の魔導温泉(オアシス)であった。

「サバイバルの最中に極上の温泉を見つけてどうすんねん!」
「温――泉――で――す――わ―――ッ!!!」

それまで寒さにガタガタと震えていたシャルロットが、名門令嬢としてのすべての矜持と教養を綺麗にかなぐり捨て、鼓膜を破らんばかりの歓喜の絶叫を上げる。
「きゃああああ、極楽ですわ!」
「お肌の細胞が生き返りますぅ!」
二人の取り巻きも、我先にと温泉へと飛び込んでいく。
「さっきまで人生の終わりやとこの世の終わりみたいに絶望しとった奴らとは、到底思えへんな……」
トトが激しく呆れる横で、私は一人、水着すら持たない(※中身は透明ドレスのノーパン)状態のまま、腕を組んで深く黙り込んでいた。
「ルイズさん!」
温泉の湯煙の向こうから、シャルロットが声を張り上げる。
「一体そこで何をしてますの! 早くあなたも入らないと、本当に下半身から風邪を引いてしまいますわよ!」
「……待ってください、熱量効率の計算中です」
「計算は後回しですわ! 早く入りますわよ!」
「……確かに。熱力学的な物理体温の維持、および皮膚組織の清潔さの確保は、現在の遭難シミュレーションにおける最優先タスクですね」
なんだかんだと屁理屈をこねながらも、結局私たち全員がその秘湯へと身を沈め、地下の冷気で凍てついていた身体を心ゆくまで温めたのだった。

さらに、一時間後。
「――完全に、生き返りましたね」
私は学生寮の安物Tシャツを再び着直し、ほこほこと湯気を全身から立てながら呟いた。
「ですが」
「何や、せっかくの温泉の余韻に無慈悲な水を差すなや」
私は大真面目な顔で、冷酷な現実を告げた。
「衣服(ドレス)は物理的に無事ですが、やはり私のパンツは、等価交換の彼方から一ミクロンも戻ってきてはいません」
「現実はどこまでも過酷やな、自分」
トトが今度ばかりは深く同情するように、私の肩の上で頷いた。
「まあ、凍死寸前の防寒パラメータが温まれたのはええことや。……ここからの湯冷めが、ある意味一番怖いホラーやけどな」
「キュィ!」
「お、買い食いと入浴を終えて、ついに上の第四層への進行再開やな!」
「キュィ!」
――その鼻先が指し示したのは、カラフルに発光する巨大キノコの不気味な群生地だった。
「キュィ♪」
「観光案内(ツアー)のガイドやっとるんやないねん!!」
私は静かに、深海のように重いため息を吐き出した。
「やはり、駄目ですね、トト」
「このカメ吉……最終目的地(逆流階段)の大まかな方角は確かに本能で知っているようですが、最短ルートを割り出すための『経路最適化能力(アルゴリズム)』が完全に欠如しています」
「ですが。目先の危険を嗅ぎ分け、常に最も快適な生命リソースを補給し続けるという点における『生存率最適化能力』だけは、神話級の魔獣らしく極めて高いようです」
私は、現在のカメ吉の移動速度と無駄な寄り道の頻度を演算パラメーターに組み込み、ボス部屋到着までの時間を脳内で再計算してみた。
「この能天気なペースを維持した場合、第四層のボス部屋へ到着するのは最短でも二日後になります」
「この極寒サバイバルで二日もノーパン徘徊したら、確実に股間から凍死するわ!」
「途中で極上の秘湯温泉三回、お食事(魔力キノコや稀少鉱石)五回の優雅な休憩プランを含めると、体力の消耗自体は抑えられますが……」
「遭難中にラグジュアリーな迷宮旅行プランを弾き出すなや、自分!」
(……これ以上、この怠惰なニート亀の観光案内に付き合っていては、私の命と、何より僅かに残された社会的尊厳が持ちませんね)
私は自らの頭脳で、この泥沼の現状に合理的な助け舟を出す決意を固めた。
「カメ吉の野生の勘に身を任せて運頼みをするなど、王立魔法大学の魔導研究者としては、これ以上は到底賛成できない非科学的かつ愚鈍な判断です」
そう冷徹に言い放ちながら、私は歩きながらシャルロットが抱える本革魔導書の地図へと視線を落とした。
ローブの懐から使い古した耐水性の研究ノートと一本の鉛筆を取り出し、魔導書に浮かぶ迷宮の立体地図を、恐るべき速度で手元の紙面へと正確に書き写し始める。

「――流体力学の基本です。迷宮のような岩壁に密閉された閉鎖空間では、通路の構造が狭く複雑なほど、空気は澱(よど)みます。ですが、先ほどからこの通路周辺だけ、特定方向から微弱な気流(風)が継続的かつ規則的に発生しているのです。……私の現在ノーパンである下半身の、極限まで研ぎ澄まされた皮膚感覚が、そのエントロピーの微細な変動を極めて正確に知覚していますから、科学的データとして間違いありません」
「な、なるほど……? (というか、そんな不名誉な理由で気流を読まないで頂戴……!)」
シャルロットが引きつった顔で呟く。
「つまり、この不自然な気流の発生源の先には、広大な迷宮の空気を循環させるだけの『巨大な時空空間』が、物理的に確実に存在しているということです」
さらさら、さらさらと、心地よい黒鉛の音が紙の上を疾走する。
通路同士の距離。交差する角度。岩壁の平均的な厚み。そして、風の流れのベクトル。
私の多次元演算に従い、手元のノートへ一本、また一本と、美しい幾何学的な補助線が精緻に引かれていく。
「一見すると、古代の石工が無作為に掘り進めた無秩序な一本道に見えますが、この迷宮は一定の高度な数理的規則に基づいて、各通路が整然と配置されています。通路の幅も曲がり角の角度も、完全なランダムの混沌(カオス)ではありません」
シャルロットが私のノートを横から覗き込み、その美貌を驚愕に染めて息を呑んだ。
「……補助線? 何よこれ、ただの複雑な迷路が、どうして……」
「はい。この迷宮には、明確な構造を組み上げた『設計者』がいます。設計者が知性を持つ存在である以上、そこには必ず、美しく合理的な『設計思想(アーキテクチャ)』が存在するのです」
安っぽい紙の上で、複雑で無秩序だったはずの暗黒の迷路が、少しずつ、まるで魔法のように美しい幾何学模様へとその姿を変えていく。
「――ご覧なさい。ここだけ、通路の密度が不自然に偏っています」
私は、描き終えた幾何学地図の中央付近にある不自然な空白の領域を、鉛筆の先端で鋭く指差した。

「……え?」
「周囲に、無駄な迷路や小部屋が一切存在しないからです。正確に言えば、シャルロットさんの高度な広域探査魔法ですらノイズとして捉えきれなかった――この地図へ未だ描かれていない『巨大なボス部屋の時空空間』が、間違いなくここに鎮座しています」
シャルロットは、琥珀色の瞳を限界まで見開いたまま、言葉を失って立ち尽くした。
「そこが……私たちの目指すべき逆流階段?」
「はい。これこそが第四層へと繋がる、真のボス部屋の時空座標です」
「つまり、要約すると?」
私の肩の上で、トトが短い前肢を組んでジト目を向けてくる。
「最初から自分の頭脳(ノーパンセンサー)で計算すれば秒で解った話やんけ。あのニート亀の観光ナビ、ミリ単位も要らんかったやん」
私は不憫な現状に苦笑しながら、そっと足元へと視線を落とした。
そこでは、手のひらサイズの小さな亀――カメ吉が、先ほどからずっと私が鉛筆の先端で指し示したのと全く同じ暗闇のベクトルを、最初から一切の迷いなく見つめ続けている。
「――ふふ。カメ吉、あなたも最初から、私たちをそこへ連れて行きたかったのでしょう?」
私の問いかけに、小さな魔獣は待ってましたとばかりに愛らしく鳴いてみせた。
「キュィ」
「……いや、ワイらが自力で地図を読み解いた後に、さも『最初から知ってました』みたいな顔して乗っかってくるの、最高に卑怯(ひも)な立ち回りやろ。ホンマにもうコイツ、案内人として要らんやん」
「キュィ(せやで)」
「そこは全否定して自分の存在意義をアピールするとこやろ!!」
思わず吹き出しそうになる私たちのコントを他所に、小さな亀は何事もなかったかのように、主人の背中を確保した満足感からか、誇らしげに前を向いた。
その視線の先には、奈落の奥底へと真っ直ぐに続く一本の通路が、不気味に、しかし確かな光明を孕んで伸びている。
私たちは互いに凍える顔を見合わせ、小さく、しかし確信を持って頷き合った。
目指すべき終着点は、すでに私たちの計算式の中に美しく導き出されていた。

――下半身の風通しは相変わらず絶好調だが、私たちの反撃の糸口は、今ここに完全に構築されたのだ。

―――(第04章『壊れた帰還陣と、帰れない天才』・完)―――

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あらすじ 崩壊した古代闘技場で一行は言葉を失い、さきほどまで屹立していた岩石の巨人の跡に巨大なクレーターだけが残る中、私は強制転移陣の残骸に向かい、残存術式からの再構築を試みつつ因果のラインが生きていることを見出して逆流固定を計算するが、触媒質量が決定的に不足して断念を余儀なくされた。 ところが迷宮管理システムがボス討伐を検知し金色の粒子が収束、地上への帰還用転移陣が起動し始めたため皆が歓喜し、私は安堵しつつ寒冷な第五層での防寒とパンツ補充の必要性を冷静に再認識した。 そんな折にトトが足元をつつきスカートが捲れかけ、私は羞恥と寒さに悲鳴を上げつつも尊厳の危機を訴え、シャルロットたちに貧しさを嘲られぬよう必死に体面を気にかける自分を自覚する。 トトは現実的に用件を告げ、クレーター底部にボスのドロップ宝箱があると指摘し、私は小箱を確認して歓喜、シャルロットは討伐者である私の権利を認め気前よく譲るが取り巻きは驚愕と羨望を隠せない。 私は未開封の第五層ボスドロップ箱というブランド価値が期待値的に最も高いと算定し、その場開封の誘惑を退けて小箱を透明ドレスのポケットへ収納し、研究機材の資金源として温存する決断を下した。 帰還陣へ向かおうとした刹那、トトが構築停止を指摘し、皆が凍りついて確認すると魔法陣は半分だけ生成され、残り半分は空間ごと消失しているという異常事態が露わになる。 私は戦闘ログを脳内で高速巻き戻し、風属性最大出力のパージによって空間断裂と全域因果干渉が生じたことを再現し、結果的に自分の一撃(とパンツの等価交換騒動)が帰還陣破壊の原因だと静かに結論づけた。 安堵から一転して帰れない現実を前に、私は感情を抑え状況分析へ回帰し、まずは生存優先の行動計画へ切り替える必要を認める。 やむなく地上帰還を断念した一行は体温維持のため近傍の秘湯温泉に向かい、私は熱量効率の計算をこねるもシャルロットに急かされ、結局全員で入浴して凍えた身体を回復させた。 入浴後に私は衣服を着直し完全復活を宣言するが、肝心のパンツは等価交換の彼方に消えたままで、物理的被服は無事でも衛生と防寒の中核が欠落した事実を淡々と共有した。 トトも同情しつつ湯冷めの危険を指摘し、遭難下では体温管理が最優先タスクであると私も合意、以後の移動計画で体力と熱のバランス最適化を前提に据える。 第四層へ向けて進行を再開すると、案内役のカメ吉は食事と温泉ばかり嗅ぎ当てる寄り道だらけの行程を提示し、私は経路最適化能力の欠如と生存率最適化への過剰特化という特性をモデル化する。 このペースではボス部屋到達が最短でも二日後となる試算が出て、極寒でノーパンの私には致命的だと判断、ラグジュアリーな寄り道プランの利点(体力温存)を認めつつも総合リスクが上回ると切り捨てた。 私は王立魔法大学の研究者として非科学的な運任せを否定し、自前の頭脳でルートを導出する決意を固め、シャルロットの魔導書地図を参照しつつ防水ノートへ立体配置を写し取って多次元演算を始める。 流体力学の観点から封鎖空間の気流の規則性を解析し、特定方向からの継続的微弱気流を私の極限まで研ぎ澄まされた皮膚感覚(不名誉ながらノーパンセンサー)で高精度検出、巨大な時空空間の存在を仮説化した。 通路間距離、交差角、岩壁厚、風ベクトルを補助線で幾何的に統合し、無秩序に見えた迷宮が高度な設計思想に基づく構造体であると見抜き、設計者の合理性からボス部屋のありかを推定する。 ノート上には通路密度の偏在が浮かび上がり、周囲に小部屋が存在しない空白領域を特定、広域探査のノイズにも埋もれた隠し大空間がそこに鎮座すると断言した。 私はその時空座標こそ第四層へ繋がる真のボス部屋であり逆流階段の位置だと結論し、シャルロットは驚愕と納得の入り混じった表情で同意する。 トトは「最初から計算すれば秒で解る」と手厳しく突っ込み、私は苦笑しつつも結果の明快さで皆を安心させ、観光ナビ不要論を半分肯定する。 ところが足元のカメ吉は初めから同じ暗闇の方向を見据えており、私はそれを認めて労い、直感としての方角感知能力を評価して行動計画に組み込む柔軟さを示した。 トトはカメ吉の要らん子ぶりを茶化すが、魔獣は飄々と主人面して前方を向き、私たちはその視線の先に伸びる奈落へ真っ直ぐ続く一本の通路を光明として共有する。 私たちは互いに頷き、凍える状況でも合意形成を迅速に完了、数学と実地感覚を統合した新ルートでの反撃開始を確認し、時間・体力・体温の三要素を最適配分する進軍へ移行した。 帰還陣は壊れ帰れないが、ボスドロップの資産化、秘湯での回復、設計思想の看破、気流解析による座標特定という連続した問題解決で状況は再起動し、全体の士気は安堵から失望、そして合理的希望へと滑らかに転調する。 私は依然ノーパンで風通し抜群という最大の弱点を抱えつつも、それを逆手に取った感覚データの活用や意思決定の迅速化で知的優位を確立し、チームは学術的推論と生存本能のハイブリッドで第四層の真ボス部屋へ向かう。 帰還不能という危機に対しては、原因分析(風属性パージの因果断裂)と将来対策(触媒確保と術式再構築の要件定義)を頭に置きつつ、当座は逆流階段の攻略と上層復帰に集中する短中期戦略を選択した。 移動中のリスクは寒冷、資源枯渇、寄り道誘発の三点だが、私の経路最適化で行程を短縮し、カメ吉の生存最適化で安全マージンを保つ二層防御を敷くことで致死リスクを許容範囲に収める。 シャルロットは名門の誇りを体現して報酬分配で潔さを示し、私の理詰めの提案を受容する統率の柔軟さも見せ、取り巻きも恐怖と羨望を行き来しながらもチームとしての結束を強めた。 私は未開封ドロップを機材資金へ転換する経済戦略を維持しつつ、パンツという急務の再調達課題を次の安全地帯で解決するタスクとして優先度を再設定した。 以上の結果、私たちの目指す終着点は数理的に美しく導出され、迷宮の混沌は秩序へと変換され、失われた帰還路に代わる攻勢ルートが確立された。 そこで私は風を読み地図を閉じ、皆と視線を合わせて一歩を踏み出し、下半身の寒風をものともせず、完全に構築された反撃の糸口を頼りに、真のボス部屋へ向けて静かに進軍を開始した。
解説+感想感想:めっちゃ笑ったし、クオリティ高いわ!
第4章、最高に面白かったです。「壊れた帰還陣と、帰れない天才」というタイトル通り、ルイズの天才ぶりと不運(主に自業自得)が炸裂してて、笑いが止まらなかった。
良かったポイント
ルイズのキャラが完璧に立ってる 脳内演算で全部解決しようとするのに、根本原因が「ノーパン冷え」ってのが天才貧乏っ子魔導士として最高に可哀想で愛おしい。杖を燃やすときの「一本三百クローネ……」とか、家計簿を引き裂く描写が痛快。彼女の「冷徹な計算」と「乙女としての尊厳」のギャップがこの作品の核だなって改めて思った。
トトのツッコミが神がかってる 「ワイ、確信したわ」「股間から風邪引くな」「脳内のドケチ演算プログラムが完全にバグっとる!」とか、関西弁の毒舌大福餅が本当にいい味出してる。ルイズとの掛け合いがこの章の最大の魅力。カメ吉(ナビ)を見つけたときの「天性のヒモの波動」シンパシーも最高に笑った。
絶望とコメディのバランス 帰還陣が半壊してる絶望→杖を燃やす→温泉発見→ルイズのノーパンセンサーでボス部屋特定、という流れがテンポ良くて気持ちいい。絶望しつつもちゃんと前進してるのが良い。シャルロットとお嬢様ズの反応も可愛くて、ルイズの変人っぷーがより際立ってた。
小ネタの密度が高い パンツ消失の余波がここまで長くネタにできるとは… カメ吉の観光案内人っぷり(温泉、キノコ、買い食い) ルイズがホログラムを光速でシャットダウンするシーン(ブラジャーパージ89%の件) 「マッチ売りの少女」ネタ
全部好き。世界観はライトノベル王道なのに、キャラのズレ方が独特で新鮮。
総評
この章は「遭難コメディ」として非常に完成度が高いです。シリアスになりすぎず、でも生存の緊張感はちゃんと残してる。ルイズが本気で頭使って地図を解析するシーンはカッコよくて、ただのドタバタじゃなく「天才の活躍」もちゃんと描かれてるのが嬉しい。
正直、続きがめっちゃ気になる。カメ吉の本性(?)とか、第四層ボス戦とか、ルイズのさらなるパンツ危機とか……全部見たい。
総じて:8.5〜9点級の良章です。 ルイズとトトの凸凹コンビがもっと暴れ回るの、期待してます! 次も楽しみにしてるで〜!
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◀第3章「聖裸の魔女と、見えざる学者と鉄壁の寄生虫」
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