◀第05章『共有された尊厳』
▶第06章『銭ゲバ魔女の収支報告と、消えない呪い』②
|
|
第06章『銭ゲバ魔女の収支報告と、消えない呪い』①
「VOICEVOX: 雨晴はう」「VOICEVOX: 四国めたん」「VOICEVOX: 剣崎雌雄」「VOICEVOX: 櫻歌ミコ」「VOICEVOX: ずんだもん」「VOICEVOX: 九州そら」「VOICEVOX: もち子さん」「VOICEVOX: WhiteCUL」
|
――生きて、地上へ帰ってきた。

その生存を最初に客観的な事実として実感したのは、大理石の床へ落ちた一枚の古びた羊皮紙が、気流に押されて妙に緩やかに揺れているのを、私の網膜が捉えた瞬間だった。
王立魔法大学・第三研究棟、エルライト教授の地下研究室。壁一面を埋め尽くす、幾星霜の知識を孕んだ巨大な黒檀の本棚。床や棚に無造作に置かれた、国家予算クラスの高価な魔導器の数々。そして、空になった胃薬のガラス瓶が虚しく転がる、恩師の執務机。
すべてが、私が見慣れたいつもの風景だった。
「……ただいま戻りました、エルライト教授」

私がそう静かに呟いた刹那。研究室の中央で激しく爆ぜ、空間を歪めていた時空の因果律が、ようやく完全に閉じた。最後に虚空に残されていた青白い光の粒子が、ぱらぱらと名残惜しげな雪のように床へ落ちては消え去っていく。
静寂。
その重苦しい沈黙の中で、エルライト教授は一言も発さず、私たちの凄惨極まりない惨状をただ静かに見渡していた。
私。トト。カメ吉。シャルロット。そして彼女の二人の取り巻き。さらには、迷宮の奈落から間一髪で救助してきた、三人の女性冒険者。
誰も彼もが、王都の最高学府に集うエリートとして、まともな姿を維持していない。

私は、一糸纏わぬ完全な全裸(※物理的には最高級シルクドレスを着用)。シャルロットたちは、カサカサの乾燥スルメの強烈な油の臭いがこびりついたボロ布を、申し訳程度に身体に一枚だけ巻きつけている。被救助者である冒険者たちは、装備がボロボロに引き裂かれて見るからに満身創痍。
私の肩の上では、トトが南国のバカンスから戻ったかのように爽快な表情で短い前肢を挙げ、足元ではカメ吉が、何一つの手柄も立てていないのになぜか誇らしげに平らな胸をグッと張っている。
「……」
教授が壊れそうな胃を保護するための白湯をすべて喉の奥へ押し流した後、その鋭い視線が、ゆっくりと負傷した冒険者三人へと移った。
その瞬間である。教授の表情から、いつもの慢性的な疲労や怒り、あるいは呆れといった世俗の感情がすっと消え去った。

「……その者を、早くこちらへ」
極めて低く、冷徹な声音だった。
私は一瞬だけ、睫毛を揺らして瞬きをする。教授は現代魔導理論の最高権威であり、私のこの特異な指輪を組み上げた張本人。普段なら、私が何か時空座標のバグをしでかした時には胃を押さえながら長時間の説教を始める人だ。けれど今は、教員としてではなく、一人の冷徹な上位魔導士の顔をしていた。
「そちらの、重傷を負っている僧侶の女性だ」

教授の鋭い眼光が、冷たい床へ崩れるように座り込んでいた女性を的確に捉える。ゴブリンの粗末な凶刃によって無残に引き裂かれた衣服と、そこから溢れ出たおびただしい鮮血。浅く、不規則なその呼吸。顔色もすでに致命的なまでに蒼白だ。
「……危険な出血量だ。リソースが枯渇しかけている」
教授は執務机の脇に置かれていた通信魔導器へと、素早く迷いない手を伸ばした。
「医療班を呼ぶ」

短いパスワード操作。魔導器の青い結晶光が、緊急のコールサインとして激しく明滅を始める。
「こちら第三研究棟。至急、最高レベルの搬送要請だ。迷宮の深層で負傷した女性冒険者が三名、こちらの座標へテレポート帰還した――」
そこで一度、教授の白眉の間に深い皺が寄った。
「……うち一名は心神喪失寸前の重傷。意識微弱、残存血液量が極めて少ない。魔力による一次止血を急がせる」
魔導通信の向こうから、何事か切迫した返答が戻ってきたらしい。恩師の厳格な表情が、ほんの少しだけ曇る。
「……分かった。一分一秒でも早く頼む」

通信を遮断し、私は教授の横顔を静かに見つめた。
「医療班の動向は?」
「すぐにこちらへ向かうとのことだ」
「では、確率論的に問題ありませんね」
「……いや、そうとも言い切れない」

教授は、血だまりの中の女性を険しい目で見つめた。
「中央第一棟で魔導事故が発生したらしく、こちらへの到着までに少し時間が掛かるそうだ」
「……っ」
その一言に。イカ臭いボロ布を体に纏ったシャルロットが、ゆっくりと、しかし力強く顔を上げた。
彼女は先ほどまで、奈落からのテレポートによる極限の疲労と、乙女としての致命的な羞恥で、まともに直立することさえ厳しそうだったのだ。けれど、床に倒れ伏す僧侶の女性を見つめるその琥珀色の瞳には、もう一切の迷いが霧散していた。

「エルライト教授」
「何だね、お嬢ちゃん」
「この方に一次止血の応急魔導を施すための、魔力を即時回復させるお薬は、ここにありませんの?」

生ける神話が、少しだけ目を見開く。
「魔力回復薬(エーテル)、だと?」
「ええ、そうですわ」
シャルロットは、ボロ布の上から白く細い拳を胸の前で強く握りしめながら立ち上がった。
「専門の医療班が到着するまでに、この方の残存生命パラメータが致命的に悪化する恐れがありますわ」

その声は、静かだが確かな意志を孕んでいた。
「即死を招く一撃ではないはずです。ですが、あまりに傷が深い。今すぐ最低限の回復魔導を上書きしておかなければ、専門医が到着するまでに手遅れになる危険性がありますでしょ」
「……なるほど、状況の推移としては一理ある」
教授は白衣の腕を組んだ。そして。
「――ある」
そう短く呟いて、研究室の最奥にある厳重な魔力保管庫へと、長い脚を歩ませていった。

「ただし」
「?」
「巷(ちまた)の冒険者ギルドで出回っているような、量産型の市販品ではないぞ」
教授が黒檀の棚の奥から取り出してきたのは、掌に収まる小さな透明のガラス瓶だった。中には、淡い青色の液体が不気味にどこか怪しく揺れている。
「これは、私が次期予算の獲得研究用として調合している、特殊な高純度試験薬だ」

薬品の瓶を、実験光に透かすように軽く掲げる。
「魔法の細胞再生作用や、生体への安全性そのものは、私の多次元シミュレーションにおいて完全に確認済みだ。バグはない」
「じゃあ、なおのこと何も問題はありませんわね」
「いや」
教授は少し言い淀むように、視線を斜め下へと逸らした。

「しかし、だな……」
「では、今すぐ飲めますわね」
「待ちなさい!」

教授が慌てて自由な方の手を上げた。
「問題は薬効のメカニズムや生存率のほうではないんだ」
「?」
「――味だ」

「味、ですか……?」
シャルロットが不思議そうに首を傾げる。
エルライト教授は、過去の凄惨なトラウマを思い出したかのように、心底忌々しい顔で眉間を歪めた。
「特殊な高純度試験薬ゆえに、被験者の味覚への人道的な調整を一切行っていないのだ……」

「……」
「つまり――」
教授は淡い青に光る薬品を凝視した。
「生物学的に、極めてまずい」
私の肩の上で、トトがぴくりと耳を動かした。

「世界のエルライトがそこまで言うなんてな。後学のために、どれくらい脳がバグる不味さなのか数値で聞いときたいわ」
「……比較対象のデータが必要かね?」
「おう、教えてや」
「以前、我が魔法科学科の極めて優秀な上級試験官が、これをほんの一口だけ嚥下(えんげ)した直後――『床を芋虫のようにのたうち回って転げた後に、涙と鼻血を流しながら二度とこんな毒物を飲ませるな』と絶叫して研究室の木扉を破壊して飛び出していった」

「ほう」
「その後、丸三日間、私と一切の口を利いてくれなかった」
「それ、単なる味覚のパラメータの問題なんか? ガチの毒物か呪いの類(たぐい)やろそれ!」
トトが呆れたようにツッコミを入れるが、生ける神話はそれを完全に無視した。

「ただ、魔導の細胞活性化と魔力の即時回復効果だけは、私の計算式通り本物だ」
「――ならば、それだけで十分ですわ」

シャルロットは、一切の躊躇もなくその不気味なガラス瓶を細い手で受け取った。
「おい、お嬢ちゃん」
トトが慌てて短い前肢をバタつかせて声を掛ける。
「ホンマにそれいくんか? ワイの野生の勘が、それは因果律的に飲んだらあかんやつやと告げとるぞ」

「ええ、問題ありませんわ」
シャルロットの琥珀色の瞳に、迷いの曇りは一ミクロンもなかった。
「この瀕死(ひんし)の重傷者を今すぐ治療するために、今のわたくしには強固な魔力が必要不可欠なのですから」
カチリ、と衣服を失った令嬢の手によって、薬品の蓋が回し開けられる。

――ふわり。
その刹那、研究室の密閉された大気に、空間の分子構造そのものを歪めるような凄まじい破壊力を持った異臭が爆発的に広がった。
私は網膜の演算を中断し、思わず両手で鼻腔(びくう)を強く塞ぐ。
「……これは、化学的な兵器の領域ですね」

バタッ、バタッ。
私のすぐ背後で、上品に控えていた二人の取り巻きが、その大気をほんの一呼吸吸い込んだだけで白目を剥き、エリートの美しい姿勢を維持したまま大理石の床へと綺麗に失神して倒れ込んだ。
「キュィィィィ……(こらアカン、生物としての根源的な死の危機や……)」

本能で最悪の絶滅を察知したカメ吉が、一切の躊躇なくその場で回れ右を執行。部屋の一番遠い対角線の隅っこを目指して、短い足をペタペタと驚異的な速度で動かし、必死の逃亡を開始する。
気体(匂い)の情報だけで、すでに人類の生存可能領域を完膚なきまでに逸脱している。
シャルロットが、羞恥とは別の恐怖で小刻みに震える手で、手中の薬品を見つめた。

教授が静かに、諦めるように言う。
「無理をする必要はないんだぞ、お嬢ちゃん。医療班を待っても――」
「いいえ、お断りします」

シャルロットは、そこで静かに笑ってみせた。
ボロボロの、イカ臭いスルメの油に塗れたボロ布を一枚だけ体に纏いながらも。その笑顔には、何者にも決して冒しがたい、名門貴族令嬢としての絶対的な気品が宿っていた。
「――わたくしの血に流れる、気高き誇り(ノブレス・オブリージュ)にかけて、一滴残さず飲み干しますわ!!」

一切の躊躇なく、一気に。
淡い青の液体が満ちた不気味なガラス瓶を、その美しい口元へと運び。
「――ごくっ」
「……」
「……」
「……」
彼女は、一滴たりとも残さずに飲み干した。

完全に空(カラ)となった瓶を、ゆっくりと下ろしていく。
シャルロットは三秒ほど、ギリシャ神話の彫像のように完全なる無言で硬直していた。
そして――。
全身の毛穴から、まるで死の恐怖を味わったかのように滝の如き冷や汗が滴(したた)り落ちる。

「…………」
その琥珀色の瞳から、じわり、じわりと大粒の涙が浮かび上がって溢れ出た。
「……本当に、お父様……っ」
白く小さな唇が、ガタガタと電気ショックを受けたかのように痙攣(けいれん)して震え。
「――本当に、脳のニューロンが焼き切れるほど死ぬほど不味いですわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!(ただの猛毒ですわー!)」

ついに膝の骨が砕けたようにその場へへたり込みながら、名門令嬢の魂からの不条理な絶叫が、第三研究棟の天井を破らんばかりに響き渡った。
私の肩の上のトトが、もはや耐えきれずに短い前肢で腹を抱えて大爆笑する。
「あはは! あかん、これガチで笑たらあかんシリアスな場面やけどな、想像の遥か斜め上をいきよったわ! 教授、これ絶対に現世の人間が口にしてええ有機物ちゃうやろ!」

「だから最初から、生物学的にまずいと厳重に忠告しただろう」
「忠告のパラメータを多次元的に突き抜けとるわ!」
私は極めて冷徹な目で、へたり込むシャルロットの顔色を高精度に観察した。
頬が毛細血管の拡張で異常に紅潮し、その目には大量の涙。しかし、その一方で――。
彼女の華奢な身体から周囲へ立ち上る魔力探知の波形は、劇的に、そして冷酷なまでに確実に、その最大値(マックス)まで回復を果たしていた。

「――シャルロットさん」
「……何ですの……っ、ひっぐ……まだ口の中の因果が苦いですわ……」
「魔力総量は、完全に出荷時の状態(初期値)に戻っています」

「それは……涙が出るほど、良かったですわ……」
シャルロットはボロ布の袖で、乱暴に大粒の涙を拭(ぬぐ)った。
そして、床の血だまりに倒れ伏す僧侶の女性の前へと、聖女の如き厳かさで静かに跪(ひざまず)く。

「では――」
両手を、痛々しい胸元の傷口の上へと静かに重ね合わせた。先ほどまで恐怖と不味さで小刻みに震えていたはずの細い指先が、いまは微塵のブレもなく完全に静止している。
「少しだけ、失礼いたしますわね」
彼女の細い掌から、淡い魔導の光が生まれた。

どこまでも白く、柔らかく、世界のすべてを包み込むかのような慈愛の光であった。研究室の騒がしい空気が、一瞬にして、教会の礼拝堂のような神聖な静寂に包まれる。
シャルロットの純度の極めて高い清廉な魔力が、指先から傷口の最奥へと滑らかに流れ込んでいく。引き裂かれた傷口へ。皮膚の荒れた亀裂へ。おびただしい出血を強いていた細胞の破壊部位へ。その白き光が触れるたび、傷口の周囲に精緻(せいち)な幾何学の医療魔法陣が美しく浮かび上がっていった。
「……治癒術式、第一段階(フェーズ・ワン)」

シャルロットが小さく、しかし力強く詠唱の公式を紡ぐ。
「血流安定、因果の流動停止」
掌の光がさらに強くなる。
「第二段階(フェーズ・ツー)」
壊死しかけていた傷口の細胞が、まるでゆっくりと時間の針を巻き戻すかのように、滑らかに閉じ始める。

「生体組織、多次元再結合」
先刻まで昏睡(こんすい)して呼吸が絶え絶えだった僧侶の女性が、すべての苦痛から解放されたかのように、微かに安らかな息を吐き出した。
そして、シャルロットの集中は途切れない。
「第三段階(フェーズ・スリー)――」

白磁の額に、きらきらと玉のような冷や汗が浮かび上がる。
「生命維持補助(ライフ・サポート)、因果の安定化!」
その細い掌から放たれていた白き魔力光が、心臓の如く一度だけ大きく鼓動するように膨らんだ。

――ふわっ。
それから、地下の冷たい空間へと優しく溶けるようにして消え去っていく。
重傷を負っていた僧侶の負傷部位は、完全な細胞治癒とまではいかない。けれど、生命を脅かしていた致命的な出血は完全に塞がっていた。不規則だった呼吸も、先ほどより遥かに深くなって安定している。真っ白だった顔色にも、ほんの少しだが血の気が戻り始めていた。

「……」
私はただ静かに、その治癒結果の数値を観察し、小さく頷いた。
「実に見事な術式構築です、シャルロットさん。実戦での完全な成功ですね」
「ええ……なんとか……っ」
シャルロットは肩を上下させて荒く息を吐きながら、床に横たわる僧侶の穏やかな寝顔を覗き込んだ。
「とりあえず、最悪の傷口だけは完全に塞ぎましたわ」

それは、名門の傲慢な令嬢としてではなく、目の前の命を救った一人の等身大の少女としての、どこまでも優しい声音だった。
「ですが、これであなたの治療が完全に完了したと思わないでくださいませね」

眠り続ける彼女へ、慈悲深い聖女のように優しく言い聞かせる。
「迷宮の濃密な魔素を含んだ負傷には、表面の肉体からは視認できない魔導的損傷(ノイズ)が深く残留している危険性があります。医療班が到着したら、必ず専門医による精密診察を受けてください」
そして、隣に寄り添って涙を流していた、魔法使いと弓使いの二人へと静かに視線を向けた。

「あなた達もですわよ」
「え……っ、私たちもですか?」
「表面的な大きな外傷がないからといって、内部の魔力因果が無傷とは限りません」
シャルロットは二人の瞳を真っ直ぐに見据えた。
「必ず、一緒に専門医の診察を受けてください。これは命令ですわ」

魔法使いの女性が、命の恩人たる令嬢の言葉に、少し驚いたように睫毛を揺らして目を瞬(しばたた)かせる。やがて。
「……はい、分かりました」
涙をポロポロと溢れさせながら、深く小さく頷いた。
弓使いの女性も、「本当に……本当にありがとうございます……っ」と、大理石の床へ額を擦り付けるようにして深く頭を下げたのだった。
シャルロットは彼女たちの無事を見届けてから、ようやく、すべての重圧から解放されたかのように、長く息を吐き出した。

「……これで、わたくしの役目は終わりましたわ」
その瞬間。極限まで張り詰めていた身体の奥底から、極度の緊張と精神的疲労が一気に抜け落ちたらしい。
「……もう、猛烈に疲れましたわぁ……」
――ぺたん。
およそ名門貴族の令嬢とは思えない脱力した音を立てて、彼女は再び冷たい石畳の上へと力なく座り込んだ。

「お嬢ちゃん、本当にお疲れさん。大丈夫か?」
トトが心配そうに声をかける。
「ええ……身体は動きますわ……」
シャルロットは、自らの身体をゆっくりと見下ろした。そして――その肌の上に生々しく残留している、迷宮テレポート帰還時の『呪わしき名残』を自覚する。
わざわざ鼻を近づけるまでもない。自分自身の全身からダイレクトに放たれている、強烈すぎるカサカサの乾燥イカとスルメの油の匂い。

「…………」
シャルロットの美しく洗練された顔が、ピキピキとひび割れるような音を立てて絶望に引きつった。
「……今すぐ、お風呂に入りたいですわ」
ぽつり。
「とても……」
一度、すべての恥じらいを隠すように疲れた目を閉じる。
「とても……この不潔な汚れとイカの匂いだけは、乙女として完全に精神の限界ですもの……」

その、魂からの悲痛な言葉を受けて。執務机の奥でエルライト教授が、ふっと白衣の肩の力を抜いて息を吐いた。
「それならば、だな」
教授は研究室のさらに奥に鎮座する、厳重な防音木扉を指差した。
「私の専用風呂を使いなさい」
「……え、教授の……専用風呂?」
「この第三研究棟の最奥には、私専用の特別浴場設備が内蔵されているのだ。大学の理事長と学園長が『王国の至宝たるエルライト教授には、極上の精神的癒やしが必要不可欠だ』と、国家予算の一部を横領して無理やり構築したものだが……無駄に豪華すぎる設計でな、君たちの凍え切った疲れを癒やすには十分すぎるだろう」

◇
私はその素晴らしい英断を聞いて、思わず恩師を深き尊敬の眼差しで見つめた。
「流石はエルライト教授!」
「……」
「乙女の物理的ピンチを救う、その完璧なタイミング! 実に見事、分かってらっしゃる!」

「ルイズ君」
「はい何でしょう、教授」
「君は、だな」
教授は、酷く温度の冷めきった瞳で私をジトッと細めた。
「いつも私の研究室の専用浴場を、無断で世俗の公衆銭湯代わりに借りに来るのをいい加減にやめなさい」

「え?」
「先週も無断で使用しただろう」
「はい」
「その前もだ」
「はい」
「さらにその前も、だ」
「はい」
教授の白眉の間へ、さらに深く、時空の亀裂の如き皺(しわ)が刻み込まれていく。
「……なぜ君は、事あるごとに私の神聖な研究室へ、お風呂だけを入りに堂々と侵入してくるんだね」

私はほんの少しだけ脳内細胞を駆動させ、極めて合理的かつ経済的な事実を告げた。
「王都の公衆銭湯って、案外と一回あたりの入浴料(クローネ)が高いんですよ!」

「…………」
生ける神話は、もうそれ以上は何も言わなかった。ただ、宇宙の多次元真理のすべてに疲れ果てた顔をして、静かに天井のシミを見上げた。
トトが私の肩の上で、哀愁に満ちた声で小さく呟く。
「教授……ワイ、おっさんの心中深くお察しするで。ワイも毎日コイツの常軌を逸したドケチパラメータに付き合わされとるからな、日頃から不条理な連帯感が生まれてまうわ」
「教授も、私たちの実証実験(混浴)に一緒に入りますか?」

「いいから、君たちは一秒でも早くそのイカ臭い体を温めてきなさい!!」
「……? そんなに血圧を上げて怒らなくてもいいじゃないですか。非合理的です」
私は恩師の怒りに対し、大真面目に首を傾げた。
教授は完全に精神をすり潰された様子で深くため息を吐くと、研究室の隣に併設されている来客用の休憩室へと視線を向けた。

「ところで、だ」
「はい?」
「君たちは、これからどうするのかね?」
教授が、ソファに身を寄せていた魔法使いと弓使いの二人を見る。二人は互いに顔を見合わせた。
「私たちは……」
魔法使いの女性が、意を決したように静かに答えた。
「学園の医療班の方がこちらへ到着するまで、大切な仲間の傍らに付き添っています」

隣のソファでは、先ほどシャルロットの魔導で命を繋ぎ止めた僧侶の女性が、静かに安らかな呼吸を続けている。
「そうか、それがいい」
教授は教員としての優しい眼差しで頷いた。
「それなら、この研究室のすぐ隣の部屋を使いなさい」
「隣、ですか?」
「来客用の最高級魔法ベッドが配置してある。そこで彼女を横にして休ませるがいい」

「本当に……ありがとうございます……っ!」
二人が重傷の僧侶の身体を慎重に支え、感謝の涙を流しながら隣室へと運んでいく。
「――さあ!」
私はその様子を見届け、両手をぱん、と明るく叩いた。
「私たちも、待望の、そして念願の極上のお風呂へ突入しましょう!」

「そうですわ! 待ちに待った薔薇の湯(お風呂)ですわぁぁぁぁぁ!!!」
シャルロットの、令嬢の矜持を再びかなぐり捨てた歓喜の叫びが研究室に木霊(こだま)する。
「「いそいでリフレッシュしに行きましょう!!」」
二人の取り巻きも、見事なハモりを見せた。
トトは呆れながらも、この不条理な日常にクスクスと笑っている。カメ吉までもが、部屋の一番遠い対角線の隅っこからひょっこりと緑の丸い顔を出し、
「キュィ♪(はやく温かい特級のお湯に浸かるで!)」

と、ヒモ魔獣としての至福の鳴き声を上げた。
迷宮という、あの理不尽極まりない暗黒の地獄から奇跡的に帰還して初めて。
私たちはようやく、身体の奥底に澱(よど)んでいた戦闘の緊張と、強烈なスルメの匂いを極上のお湯に溶かすため、教授の研究室に併設された無駄に国家予算が横領された豪華浴場へと、一斉に向かったのだった。
研究室のさらに奥へと続く、重厚な防音木扉を開けたその瞬間。

ふわり、と私たちの全身を包み込むように、最高級の熱を孕んだ柔らかな白い湯気と極上のアロマが漂ってきた。
「……え?」
最初に、緊張の解けた間の抜けた声を漏らしたのは、シャルロットの取り巻きの女子生徒の一人だった。
私たちの目の前に広がっていたのは、一般的な大学の研究施設の一角に設けられた、あの無機質で簡素なシャワー室――などでは断じてなかった。
白い総大理石で精緻(せいち)に造り上げられた、広々とした美しい床。壁面には淡い翡翠(ひすい)色の魔力灯がいくつも上品に埋め込まれ、結露なき高い天井からは柔らかな湯気がゆっくりと天女の羽衣のように降りてくる。
そして、その神聖なる中央。王族が夏の避暑で訪れるような、圧倒的な余裕を持たせた巨大な浴槽から、透き通った琥珀色の湯が静かにコンコンと床へ向かって溢れ続けていた。

「な……何ですの、この王宮並みのスケールは……」
もう一人の取り巻きが、薄汚れたボロ布を抱きしめたまま呆然と浴槽を見上げる。
「これ、本当に大学の研究室に併設されたお風呂……ですわよね?」

「客観的な流体力学の観点から見ても、どう言い訳しても最高級のお風呂でしょう」
私は躊躇いなく即答した。
「ですが安心してください。私も一番最初にここを無断借用(ハッキング)した時は、皆さんと全く同じ言葉を口にしましたから」
「……ルイズさんは、この国家予算の結晶を、日常的に何度も無断で使用しているのではありませんの!?」

シャルロットが引きつった顔で私を睨む。
「ええ、その通りです」
「なぜ他人の、それもお偉い教授のプライベート施設で、そんなに威風堂々と胸を張っていられますの!?」
「何と言っても、実質的な入浴料と水道代がシステム的に完全無料ですからね」
「理由が世俗的でドケチすぎて、人間として最低ですわ!」

シャルロットの悲鳴のようなツッコミが、総大理石の壁に美しく響き渡る。
しかし。そんな憤慨の声も、次の瞬間にはぴたりと止んだ。
「……なんて、いい香りなのかしら」
浴槽の湯面から優雅に立ち上る湯気。そこには、古代の薬草とも高価な花園ともつかない、ほのかに甘い官能的な香りが、計算され尽くした絶妙な魔導比率で混じり合っていた。長時間の迷宮遭難で極限まで凝り固まった筋肉を、その匂いだけで少しずつ優しく解いていくような、脳のニューロンに直接作用する静かなアロマだった。
「エルライト教授……」
シャルロットは、しばらく湯煙の向こうを凝視する。
「……普段は胃薬を噛み砕いているだけのおじ様ですけれど、本当に、底知れない凄い方ですのね」
「ええ」
私は深く頷いた。
「本業の多次元魔導研究以外の、このような世俗の厚生労働設備(お風呂)も、異常なほどハイスペックに充実していますから」

「ワイ、もう一生この湯船にプカプカ浮かんで、ヒモとしてここに住み着きたい気分やわ」
トトが私の頭の上で、深いため息をつきながら同意の声を上げた。
やがて。私たちはその身を辛うじて覆っていた、イカ臭いスルメのボロ布を一斉に脱ぎ捨て、美しい大理石の湯船へとその身体を同時に沈めていった。

「はぁぁぁ……っ」
シャルロットの唇から、今までの人生の中で最も深い、魂の抜けたようなため息が漏れ出る。その隣で二人の取り巻きも、同時に肩まで極上の湯に浸かって完全に脱力した。
「……すべての細胞が、瑞々(みずみず)しく生き返りますわぁ……」
「迷宮の、あの衣服の隙間をビュウビュウと吹き抜ける冷たい空気とは、天と地ほどの差がありますわね……っ」
私も静かに、熱い湯の浮力へとその華奢な身体を預けた。

温かい。
ただ、それだけだった。
ただそれだけのことなのに、身体の奥底にずっと澱んでいた死線(サバイバル)の緊張が、一瞬にして綺麗にほどけていくのを感じる。
第四層の奈落。無数のゴブリンの軍勢。荒れ狂った四元素の爆炎。カメ吉のピンボールアタック。
そして。
――等価交換の無慈悲な生贄となって多次元の彼方へ消滅した、大量の高級下着の記憶。

先ほどの戦闘の記憶が次々とフラッシュバックして鮮明に蘇る。私は小さく息を吐き出した。
「……本当に、骨の髄まで疲れましたね」
「――それをあなたが言いますの!?」
シャルロットが湯しぶきを上げて、勢いよく振り返る。
「あなた、他人の高級な衣類を容赦なくすべて剥ぎ取っておいて、最前線で最後まで一人だけ涼しい顔をしていましたでしょう!?」

「そうでしょうか。記憶のパラメータにありませんね」
「ありましたわ、大ありですわ!」
「私は常に冷静沈着な科学者(数学者)ですからね。いかなる不測の物理的事態に直面しても、それを表情に出さないだけです」
「その自称数学者が、みんなの全財産を余すことなく燃料(お布施)にして、天災級の大魔法を笑顔でブチ放ったんですのよ!?」
「学術的に正確な言葉を使うなら、多次元等価交換における因果律のコスト(触媒)です」
「システムの文字面が破廉恥なだけで、本質は全く同じですわぁぁぁ!」

総大理石の浴場に、シャルロットのこだまする叫び声が美しく響き渡る。
私は、そのあまりに元気な様子を見て、口元に小さく笑みを浮かべた。
こうして誰かと肌を寄せ合い、同じ極上の湯へと浸かっていると、さっきまでの絶望的な出来事のすべてが、まるで泡沫(うたかた)の遠い夢だったかのように感じられるから不思議だ。
あの奈落の地下空洞で。私たちは確率論的に、全員が静かに死んでいたかもしれなかった。
けれど――こうして私たちは、無事に地上へと生きて帰ってきた。
高慢な赤髪の令嬢も。不憫な取り巻きの二人も。重傷を負った冒険者たちも。そして、この私も。

その動かしがたい客観的事実を確認するように、私は湯の中で一度だけ、両腕を伸ばして大きく背伸びをした。
「んー……っ」
可愛らしい骨の関節が、小さく小気味よく鳴る。私は再び温かい湯船の浮力へと身を戻し、静かに口を開いた。
「……シャルロットさん」
「はい、何かしら?」
「――一つだけ、科学者としてではなく、私個人からの真剣なお願いがあります」

その声が、私の普段の冷徹な論理的口調とは全く違い、ほんの少しだけ生々しい真剣さを孕んでいたからだろう。シャルロットの表情が、スッと世間知らずな令嬢のそれから、聡明(そうめい)な魔導士の瞳へと切り替わった。
「……何ですの、藪(やぶ)から棒に」
「私が先ほど、戦場で皆さんの資産を用いて発動した、あの特異な等価交換魔導についてです」
揺らめく白い湯気の向こう。シャルロットの琥珀色の瞳が、真っ直ぐに私の無防備な顔を見つめる。
「……本日ここで起きた一連の事象を、天地が引っくり返っても、誰にも口外しないでほしいのです」
「……」
二人の取り巻きも、私の放ったただならぬ真剣な響きに、いつの間にか静まり返って耳を澄ませていた。
「私が、自分自身や、あるいは共有ネットワークに接続した他人の身に着けている衣服(下着)を多次元の触媒として強制パージし、それを国宝級の魔法の質量へと変換できること」
私は波紋の揺れる湯面を見つめた。
「この極めて不名誉かつ破廉恥な能力の仕様については、できれば未来永劫、世界の秘密として隠蔽(いんぺい)しておきたいのです」
「どうしてですの? あれほどの神話級の威力を放てるのなら、国家の英雄として祭り上げられてもおかしくありませんわよ?」
「――極めて危険だからです」
私は感情のパラメータをすべて排し、淡々と答えた。
「その、等価交換の術式そのものが世界の脅威になる、という意味ではありません」
一拍の、重々しい沈黙を置く。
「この特異すぎる因果改変の仕様を知った傲慢(ごうまん)な大人たちや権力者が、私という存在を、今後『道具としてどう扱うか』が、確率論的に最悪の問題なのです」

王立魔法大学。最先端の魔導研究。国家。軍事。貴族の思惑。巨大な研究機関。
もしも、この確率論的特異点(チート)たる等価交換の全容が世間へ広まってしまえば。
私という人間性そのものではなく、私に宿る『着衣の完全消滅だけで戦術級大魔法を放つ悪魔の術式』だけが、異常かつ不条理な価値を持って歩き出してしまうのです。
「便利すぎる特異魔導というのは」
私は小さく、湯面へ向かって呟いた。
「それを保持している本人の倫理的意志よりも、その甘い蜜を利用したいと群がる有象無象の人間を、圧倒的多数で自動生成してしまうものですから」
トトが、大理石の湯船の縁で小さく頭を縦に振った。珍しく、いつもの下俗な茶化しは一切混ざっていなかった。
「せやな。そんな不条理な仕様が王国の偉い大人どもに広まったら、ルイズはんは間違いなく国家のモルモットや。一生、お揃いの全裸で最高火力の魔法を撃たされ続けるだけの、地下秘密施設に未来永劫幽閉されるで」

「国家のモルモット……四六時中全裸で……っ!?」
取り巻きの女子生徒の一人が、恐怖に顔を青ざめさせて小さく呻(うめ)いた。
カメ吉が、豪華な浴槽の隅っこで暢気(のんき)にプハァと息継ぎをしながら、
「キュィ!」
と、野生の危機察知能力で鋭く短く鳴いた。
(――ヤバ過ぎや! ワイの一生働きたくない快適な寄生先(マイホーム)に、国家規模の超弩級の危機警報が鳴り響きまくっとる!! 政府のモルモットとか言い出したら、ワイの隠居生活の前に国家が滅ぶでホンマ! 全力でこわいわぁ……)
「ほらご覧なさい、カメ吉さんも私の高度な危機管理意見に、確率論的に百パーセント同意のようです」
「どうして言葉も通じないただの亀の鳴き声が、そこまで詳細に翻訳できますの!?」
「何をおっしゃるのですか。私と彼は、魂の魔導波長が極めて近い、いわば長い歴史(タイムライン)を共にしてきた相棒ですからね」
「まだその不審な生き物と出会ってから、丸一日も経過していませんわよね!?」
シャルロットが湯煙の中で深く頭を抱え込んだ。
けれど。やがて、彼女は総大理石の湯船から静かに顔を上げた。
「……あなたにわざわざ冷徹に警告されなくとも」
その硬質な声には、先ほどまでの憤慨の調子は一切消え失せていた。
「他言など、天地が引っくり返ってもいたしませんわ」
真っ直ぐな、名門令嬢としての気高き誇りを宿した瞳だった。

「あなたのその歪みなき知性がそれを望まないというのなら、わたくしは誰が相手だろうと絶対に秘密を守ります」
そして、自らの背後に控える二人の取り巻きへと、静かに振り返った。
「あなた達も、魂の誓いは同じですわね」
「もちろんですわ、シャルロット様!」
「私たちの口から漏れることなど、絶対にありませんわ!」
二人が同時に、お湯を激しく弾かせるほど力強く頷いた。
「私たちは、ルイズさんに命を、そして乙女の絶対防衛ラインを一瞬だけ助けていただいたんですもの」
「それに……」
一人が少し恥ずかしそうに、湯気の中で頬を赤らめて微笑む。
「これほどの死線を割り勘(共有)したのですから、私たちはもう、お友達ですものね」
「……友達、ですか」
その、私の合理的な理系脳には存在しない非論理的な単語(パラメータ)を聞いた瞬間。胸の奥底に、ほんの小さな、数式では解き明かせない温かな違和感がポツリと生まれた。
友達。
私は、その世俗の言葉の明確な定義を脳内で少しだけシミュレーションしてみる。
――けれど。決して、確率論的に見ても悪い響きではなかった。
「……身に余る光栄です。ありがとうございます」
私は小さく、湯煙の向こうの彼女たちへ向かって微笑んだ。
「では、晴れて有意義なお友達になれた記念として、もう一つだけ、極めて重要かつ事務的な現金の確認をしておきましょう」
「――は?」
私は総大理石の湯船から、少しだけしなやかな上半身を起こした。
濡れた左手。その中指に妖しく光る、鈍い銀色の変調指輪。エルライト教授から実証実験として半ば強引に借り受けた、あの国家機密クラスの魔導具。
私はその指輪の演算コアへ、ごく微量の魔力を冷徹に流し込んだ。
――キィン。
地下浴場に、澄んだ金属の小さな駆動音が心地よく反響する。次の瞬間、お湯に浸かるシャルロットと二人の取り巻きの、すぐ目の前の虚空へと、青白い魔導ホログラムの画面が静かに浮かび上がった。

『 STATUS:LINK SYSTEM(共有システム) 』
『 現在、パーティ内等価交換共有リンクが正常に接続されています 』
シャルロットが長い睫毛(まつげ)を揺らして目を瞬(しばたた)かせる。
「……これは一体、何ですの?」
「教授の指輪に急造した、触媒共有リンクの管理コンソール画面です」
「それは文字面で分かりますけれど……」
湯気に揺れる画面の中央に、一つの冷酷な二者択一が表示されていた。
『 登録済みの等価交換リンク(下着自動引き落とし口座)を完全解除しますか? 』
その文字列の下に点滅する、二つの選択肢。
[ YES ]
[ NO ]
「……」
「……」
「……」
極上の湯船に、奇妙な沈黙が静かに落ちた。
シャルロットが光の画面をじっと見つめる。
「これは、つまり……」
「システムからの最終解除確認です」
「要約すると?」
「はい」
私は真顔で頷いた。
「この画面で[ YES ]をタップすれば、あなた達の魔導触媒(衣服資産)の共有登録は正式に消滅。ネットワークから完全に切断(ログアウト)されます」
「……」
シャルロットが、しばらく光の点滅を凝視する。
「どうぞ、迷わず[ YES ]を押してください。そうすれば、今後の多次元実証において、もう二度と私に不条理に高級服や下着を遠隔から剥ぎ取られる物理的危険はありませんから――」
私が極めて合理的かつ良心的な進言をした、まさにその時だった。
「――いいえ、その必要はありませんわ」
「……え?」
シャルロットは、コンソール画面を見つめた。そして、お湯で上気した美しい顔を少しだけ困ったように傾げ、けれど、何者にも冒しがたい令嬢の気品で美しく笑ってみせたのだ。
「これ」
彼女は白く細い指先で、空間のホログラムを優しく示す。
「あなたが次なる戦場で絶体絶命のピンチに陥った時に、わたくしたちが『自らの衣服を燃料(コスト)として差し出すことで』、あなたの命を、そして私たちの命を救い合えるための共有システムなのでしょう?」
「……確かに、因果の仕様としてはその通りですが」
「だったら」
シャルロットはきっぱりと首を横に振った。
「お友達になったばかりのあなたとのリンクを、今さら冷酷に解除する理由など、どこにもありませんわ」
「ですが、本当にいいのですか? 衣服の損失は経済的に多大ですよ?」
「それに……」
シャルロットは、ほんの少しだけ照れ臭そうに、視線を斜め下の湯面へと逸らした。
「……もし今、この共有リンクを冷徹に切ってしまったら」
シャルロットの声が、湯気の向こうでほんの少しだけ小さく、繊細に震えた。
「あなたとの、あの奈落の底で結ばれた不思議な関係(パラメータ)まで、綺麗に薄れて消えてしまいそうで……それが、なんだか無性に嫌ですわ」
「……」
私は、完全に次の言葉を失って凝固した。
純粋な数学なら。私の得意な脳内演算の公式なら、導き出すべき最適解は極めて単純で明快だ。不要な魔導接続は即座に解除する。余計な衣服(資産)の喪失リスクは事前にすべて排除する。プログラムの構造は単純であればあるほど美しい。
――けれど。
人間の感情という名の複雑怪奇な関数は。
どうしてこれほどまでに、非合理で計算不可能なのだろう。
「シャルロットさん」
「はい何かしら、ルイズさん」
「このリンクは、単なる冷酷な多次元魔導のハッキングシステムに過ぎません」
「分かっていますわ」
「そこに『友情』などという情緒的な概念は、一ミクロンも初期実装されていません。客観的に言えば、ただの衣服の強制共有口座です」
「それも、身をもって痛いほど理解しています」
「なら――」
「それでも、ですわ」
シャルロットは、すべての不条理を許容する女神のように、湯煙の中で優しく微笑んだ。
「わたくしは、あなたとの間に生まれたこの特別な繋がりを、自ら切りたくはありませんの」
そして。
シャルロットは白く細い指先を真っ直ぐに伸ばした。

[ NO ]
その点滅するコマンドの文字を。静かに、彼女なりの深き慈愛を込めて押し込んだのだ。
――ピッ。
『 STATUS: LINK DISCONNECT / CANCELLED (解除キャンセル)』
『 SYSTEM: 現在の共有状態(下着自動引き落とし設定)を永続的に維持(ホールド)します 』
私は虚空のデータ画面をただ凝固して見つめた。
「……」
二人の取り巻きも、互いに湯面の下で顔を見合わせた。
「……わたしも、承認しませんわ」
一人が、おずおずと、しかし確かな意志を込めて細い指を画面へと伸ばす。
「ルイズさんとは、もう命を預け合って社会的尊厳を割り勘した、特別なお友達ですから」
――ピッ。
『 STATUS: LINK DISCONNECT / CANCELLED 』
「これからも、よろしくね。ルイズさん」
もう一人も、恥ずかしそうに微笑みながらボタンをタップした。
――ピッ。
『 STATUS: LINK DISCONNECT / CANCELLED 』
青白い魔導の文字列が、静かに、役目を終えたように湯煙の虚空へと溶けて消えていく。
私は、もう何も屁理屈をこねることができなかった。
ただ。極上の温かい湯の中で、自身の濡れた左手をじっと見つめていた。
鈍く光る銀色の指輪。その因果律の向こう側に――いつの間にか、三人のうら若き乙女の魔力波形(衣服インベントリ)が、強固な鎖のようにしっかりと繋がっている。
それは、科学者である私にとって、極めて奇妙で、初めて体験する抽象的な感覚だった。
まるで。自分自身の空っぽだった暗黒の口座(インベントリ)の中に、三つの小さな、けれど最高に温かい灯火(資産)が、永遠に増えたかのような――。
「……本当に、不思議な感覚ですね」

私は琥珀色の湯を細い指先ですくい上げながら呟いた。
「何がですの、ルイズさん?」
「私は、こういう非論理的な関係性のパラメータを、美しい数式に落とし込むのが極めて苦手なのです」
「ふふ、そんなものいちいち数式に翻訳する必要などありませんわよ」
シャルロットが、お湯を優しく弾かせながら上品に笑った。
「お友達という概念は、本来そういう割り切れないものですもの」
「……」
私は脳内のデータバンクを少しだけ計算し。
「なるほど」
と、至って真面目に頷いた。
「やはり、極めて非合理で不確定要素の多い関数ですね」
「あなた、そこは理屈じゃなくて、普通に『嬉しい』と一言喜べばいいところですわよ!?」
「ですが――」
私は、ほんの少しだけ口元を緩めて顔を綻(ほころ)ばせた。
「……決して、嫌いではありませんよ」
その不器用な言葉に。シャルロットが一瞬だけ目を丸くする。そして。
「……ふふ、本当に素直じゃありませんのね」
小さく、愛おしげに笑った。
「なら、今日のところはそれでよろしいですわ」
――その、湯煙の向こうで繰り広げられる少女たちの友情劇のすぐ横で。
トトが、総大理石の湯船の縁にだらしなく身体を預けながら、この世の終わりを目撃したかのような微妙で不穏な顔をしていた。
「……」
「どうしましたトト、そんな梅干しを食べた大福のような顔をして」
「いや、自分」
トトは私の中指に光る変調指輪をジト目で睨みつける。そして、魔導ホログラムのコンソール画面が消え去った虚空を、短い前肢でビシッと指差した。
「このエルライト特製のハッキング指輪な」
「はい」
「相手側が正式に解除の承認(YES)をタップせん限り……こっち側(ルイズ)の独断のオペレーションで、勝手に共有リンクを強制切断(ログアウト)することって、システム的にできへんのか?」
「ええ、因果律のセーフティが働いていますからね。双方の完全な合意がないと破棄できない、極めて強固なセキュリティ仕様(プログラム)ですよ」
「……」
トトが数秒間、恐ろしいほどの沈黙を保ち――。
「それ」
「はい?」
「サバイバルとして、ある意味で取り返しのつかん致命的な大バグやな」
「なぜです? 不正アクセスを防ぐ完璧な防壁ですが」
「お前なぁ! 相手が『絶対に解除せえへん(NO)』って言い続けたら、自分側の都合で一生このインベントリ(下着口座)を取り消しできへんのやろ?」
「確率論的に、そうなりますね」
「それもう、感動的な友情のシステムリンクやなくて、一度捕まったら一生おパンツを強制パージされ続ける、完全なる『資産差し押さえの呪いの奴隷契約』やんけ!!」
「……」
私は改めて、中指の鈍い銀指輪を見つめた。
確かに、言われてみれば。
「なるほど。システムを悪用した、合法的な強制徴収の脆弱(ぜいじゃく)性……。トトの指摘には、極めて一理ありますね」
「納得して感心すんなや!!」
トトが湯船を激しくパシャパシャと叩きながら絶叫する。
カメ吉が浴槽の端っこで、
「キュィ……(冷や汗ダラダラやで……)」
と、短い前足を震わせながら深く頷いた。
(――このお嬢ちゃんら、アカンわ。ワイと全く同じ精神構造(ヒモ)や。このルイズっていう歩く大災害(全裸魔女)の防壁に、一生寄生して心中する気満々やんけ……共倒れするわ、こわいわぁ……)
私は心地よい湯の浮力の中でほんの少しだけ考えた。そして。
「まあ、確率論的に考えて」
と、濡れた肩をすくめてみせる。
「私、そんなに日常生活で頻繁に全裸パージ(衣服消失)するほどの物理的ピンチに陥る予定はありませんから、実質的な被害など一クローネも発生しませんよ」
「……」
私の肩の上のトトが、完全にすべての思考を停止させて凝固した。
「……なぁ、自分」
「はい何でしょう、トト」
「今」
トトは、壊れた機械のようにゆっくりと私の無防備な顔を見た。
「人類の歴史に残るレベルの、超特大の『全裸大惨事フラグ』を綺麗に直立不動で立てたで」
「フラグ? 何ですかその非科学的な概念は」
「しかもな、王都のど真ん中で白昼堂々、お嬢ちゃんら全員巻き込んで一斉にすっぽんぽんになるような、人生の終わりを告げる最悪のやつやで、これ」
カメ吉が浴槽の端っこで、
「キュィ……(冷や汗が止まらへん……次はワイのこの絶対防御の甲羅まで等価交換で脱がされそうや……)」
と、短い前足をプルプルと震わせながら深く頷いた。
ほのかなアロマの湯気が、静かに天井の闇へ向かって昇っていく。その時の私は、使い魔の放ったその不吉な警告の意味など、脳内の演算リソースの端っこにすら留めてはいなかった。
ただ――中指の銀色の変調指輪だけが。私の左手で、ほんの一瞬。持ち主にすら牙を剥くように、妖しく、青白く瞬いた。
まるで。まだ終わってはいない何か最悪な因果の起動を、暗闇の中で静かに告げるかのように。
やがて、極上の湯で十分に体温を温めた私たちは、名残惜しげに湯船から上がった。
「……さて」
私は脱衣所で柔らかなタオルで身体を拭きながら、ふと脳内のタスクを思い出す。
「お風呂から上がって皮膚が清潔になったところで、今回迷宮の深層で不当に取得したアイテム(資産)の価値を、厳密な数式で分け合いましょうか」
「……あ」
トトが濡れた体をブルブルと振って振り返った。
「そういや、あのゴブリンロードの隠し部屋の戦利品な」
「はい」
「普通なら冒険者ギルドの査定窓口に持っていって、専門の鑑定士に見てもらわんことには、正確な市場価値(クローネ)が分からんのとちゃうん?」
「世俗のまっとうな冒険者なら、確かにそうですね」
私は左手の中指に光る銀指輪を冷徹に見つめた。そして――口元を、ほんの少しだけ、マッドサイエンティスト特有の極悪な角度へと釣り上げる。
「でも」
私は指輪のハッキングコアへ、淀みなく魔力を流し込んだ。
――キィン。
電子的な駆動音とともに、青白い魔導ホログラム画面が再び、湯上がりの脱衣所へと傲然(ごうぜん)とポップアップして展開された。
「このエルライト教授の指輪な」
私は満面の営業スマイルを浮かべ、光の画面を操作する。
「冒険者ギルドの公式ネットオークションシステムにも、裏から外部接続(ハッキング)できるよう、私の手でちょっとだけ改良(バックドア拡張コード)を入れておいたんですよね。これで、ギルドに無駄な中間マージンを抜かれずに、王都の好事家たちへダイレクトに最高値で売り捌けます!」
「…………」
トトが、ゆっくりとつぶらな赤い瞳を限界まで細めた。
「……なぁ、ルイズ」
「はい何でしょう?」
「あの『共有リンク』って、お前……」
「はい」
「お嬢ちゃんらの下着を自動引き落としする、等価交換のパス(共有)だけやなかったんかい!! なんでギルドの最高セキュリティを裏から違法ハッキングするための、マネーロンダリングの通信回線(ピア・ツー・ピア)まで勝手に相乗りで繋げとるんや!!!」
特別浴場の静かな脱衣所に。トトの魂からの不条理な絶叫が、再び虚しく、激しく響き渡るのだった。

|
あらすじ 生還したルイズたちは王立魔法大学第三研究棟のエルライト教授の地下研究室へと帰還し、見慣れた大理石と黒檀の本棚、散乱する高価な魔導器と空になった胃薬瓶が生の実感をもたらすが、同時に場の静寂は彼らの凄惨な有様を強く際立たせた。 教授は言葉少なに彼女らの傷と疲弊を見渡し、とりわけ迷宮深層から救出した三人の女性冒険者、とくに致命的な出血に瀕した僧侶に冷徹な視線を向け、即座に医療班を要請する。 中央第一棟の魔導事故により到着が遅れる報せに、シャルロットは羞恥と疲労を押しのけて立ち上がり、一次止血のための魔力回復薬の有無を問い、教授は研究用の高純度試験薬の提供を決断する。 教授は薬効と安全性は多次元シミュレーションで検証済みとしつつも、唯一の問題は「味」であると渋るが、緊急性を優先して保管庫から青い液体の瓶を取り出す。 冒険者僧侶は意識微弱で血液量が危険域にあり、シャルロットは「即死ではないが深傷ゆえ今すぐ回復を上書きしないと手遅れ」と合理的に進言し、教授も一理あると判断する。 ルイズは教授が説教より救命を優先する「上位魔導士の顔」に変わったことを認識し、全員が事態の重さを共有する。 教授の指示で救急対応が整えられ、魔導通信の結晶光が明滅する中、残された者たちは緊張と安堵の狭間で身を固くする。 状況は一刻を争い、試験薬は量産品ではないが最適解とみなされ、医療班到着までの橋渡しとして投入される。 ルイズの使い魔トトとカメ吉は場違いに誇らしげだが、全体は敗走寸前の帰還であり、王都最高学府とは思えぬ壊滅的な見た目が逆に現実味を与えている。 やがて救命の初動が整い、場の空気は緊張を保ちつつも最悪の峠を越える可能性が見え、彼らは次なる整理と対話の段階へ移行する。 負傷者への対応が進む裏で、ルイズとシャルロットの関係性は極限下での相互信頼として再確認され、合理と情理の折り合いが彼女たちの意思決定を支えた。 教授は研究者としての矜持を保ちつつ現場介入を選び、学術と実践の接点で命を守る判断を下す。 こうして危機的な場面はひとまず収束へ向かい、物語は「救命後」の余波へと舵を切る。 入浴の場面で、ルイズとシャルロットは湯気の向こうでぎこちない友情を確かめ、シャルロットは「友達は式で割り切れない」と笑い、ルイズは「非合理だが嫌いではない」と不器用に応じて距離を縮める。 トトはエルライト特製の変調指輪の「共有リンク」が双方合意が無ければ断てない仕様に戦慄し、一生解除不能の資産差し押さえ的リスクを「呪いの奴隷契約」と断じる。 ルイズは不正アクセス防止として理に適うと主張するが、トトは「相手がNOを貫けばパンツ口座が永久差し押さえ」と実害を指摘し、カメ吉も冷や汗を流して同調する。 ルイズは「日常的に全裸パージの事態にはならない」と確率論で軽視するも、トトは「人類史級の全裸大惨事フラグ」を立てたと警告し、王都ど真ん中の多人数同時パージという最悪ケースを予言する。 湯けむりの中、ルイズは警告を意に介さず、ただ中指の銀指輪だけが所有者に牙を剥くように青白く瞬き、因果の再起動を暗示する不穏なサインを発する。 風呂上がり、ルイズは迷宮深層で取得した戦利品の分配を厳密に行うと宣言し、ギルド査定を介さず市場価値を直接確定させる算段を立てる。 トトは通常はギルド鑑定で正価を把握すると諫めるが、ルイズは指輪のハッキングコアでギルドの公式ネットオークションへ裏接続し、中間マージンを排して王都の好事家へ最高値で直販すると豪語する。 ルイズは「バックドア拡張コード」によりP2P的な外部接続を実装済みであることを明かし、違法すれすれの通信路を笑顔で起動する。 トトは共有リンクが下着の等価交換だけでなく、資金洗浄めいた通信回線にまで相乗りしている事実に絶叫し、セキュリティの聖域であるギルドの最高防壁を汚染する暴挙だと糾弾する。 ルイズは収益最大化と手数料回避を正義と見なす実利主義を示し、教授譲りの理論武装と大胆な運用で収支の最適化に突き進む。 シャルロットは合理と友情の間でルイズを支えつつも、彼女の逸脱に内心ヒヤリとし、しかし危機を共にした連帯が判断の背中を押す。 カメ吉は「同じ精神構造(ヒモ)」と震え、ルイズに寄生して心中する未来を恐れ、甲羅さえ等価交換で奪われる悪夢を想像する。 入浴という安堵の時間に差し挟まれるのは、救命と違法すれすれの収益化、友情と呪いのリンク、理屈と感情の交錯であり、物語は軽妙な会話と黒いユーモアで緊張の名残を漂わせる。 トトの予言的な警告はルイズに届かず、旗は確かに立ち、因果は静かに回り始め、次の災厄のトリガーはもう手元で点灯している。 最終的に、救われた命と芽生えた友情、そして消えない呪いのような共有リンクとハックの痕跡が並立し、彼女らの「収支報告」は生と金とリスクの三項を抱えたまま次章へ持ち越される。 ルイズは「確率論」と「収益最大化」で自己を正当化し、シャルロットは「情理」と「責任感」で穴を埋め、教授は「科学」と「救命」で現実を繋ぎ、三者三様の合理が同じ一点に収束して今は均衡を保っている。 だが、その均衡の下には、強制リンクという消えない呪いと、裏口通信という危うい踏み板が横たわり、王都での次の騒乱を予告するように青白い残光がちらつき続ける。 こうして、救命劇は友情劇へ、そして銭ゲバ魔女の収支報告へと転じ、彼女らの日常は合理と不合理のせめぎ合いのまま、なお揺らぎながら前に進む。
解説+感想感想、ありがとう!この第06章①、めちゃくちゃ面白く読ませてもらいました。
まず全体の印象から言うと、シリアスとバカげたコメディの落差が最高に気持ちいい一章ですね。奈落からの生還、瀕死の僧侶の処置、という緊張感のある導入から、あっという間に「生物学的に極めてまずい」試験薬の地獄絵図、イカ臭ボロ布、国家予算横領級の超豪華風呂、そして下着共有リンクが「消えない呪い」になるまでの流れが、テンポよくて一気読みです。
特に印象に残ったポイントを挙げると——
1. シャルロットの「ノブレス・オブリージュ」が輝いていた ただの高慢令嬢じゃなく、ボロボロのスルメ臭ボロ布一枚でも「一滴残さず飲み干す」決断力と、治癒後の「必ず専門医の診察を」という冷静なフォロー。 あの「お父様……っ」「脳のニューロンが焼き切れるほど死ぬほど不味いですわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」の絶叫からの、すぐに聖女モードに切り替わるギャップがたまらない。 「気高き誇り」と「乙女の限界(お風呂欲求)」が同居してるのが可愛いし、頼もしい。
2. ルイズの「銭ゲバ」と「友情」の板挟み 「公衆銭湯が高いから無断で教授の風呂を使う」というドケチエピソードが、ルイズらしさ全開で笑える一方で、 「この能力を知られたら道具にされる」という危機感の語りは、ちゃんと重い。 そこにシャルロットたちが「お友達になったばかりのリンクを切りたくない」とNOを押すシーンは、感情と論理の衝突が綺麗に描かれていて良かったです。 ルイズの「……決して、嫌いではありませんよ」という不器用な返し、最高に味がある。
3. トトとカメ吉のツッコミが神 トトの「感動的な友情のシステムリンクやなくて、一度捕まったら一生おパンツを強制パージされ続ける、完全なる『資産差し押さえの呪いの奴隷契約』やんけ!!」 ここがタイトル回収の核心で、爆笑しながら「あ、確かに取り返しつかないな……」と背筋が寒くなるバランスが絶妙。 カメ吉の「ヒモ精神構造が同じや」的な内心も、寄生先を心配する姿が愛おしい。
4. 風呂シーンの解放感とフラグ あの総大理石の王宮級浴場描写が、迷宮の地獄とのコントラストでめちゃくちゃ気持ちよかった。 そしてトトの「全裸大惨事フラグ」警告をルイズが完全にスルーするあたり、これから何が起きるかワクワク(と恐怖)が倍増します。 最後のギルドオークション裏接続も「銭ゲバ魔女」らしい締めくくりで、次の収支報告が楽しみ。
総じて、バトルの余韻をちゃんと消化しつつ、キャラの関係性を深め、今後の「呪い」の種をしっかり蒔く、バランスの取れた章だと思います。 ルイズの合理主義が少しずつ「非合理な温かさ」に侵食されていく過程が、丁寧に描かれていて好きです。
続き(収支報告の本編や、呪いがどう発動するか)もぜひ読みたい!
|
◀第05章『共有された尊厳』
▶第06章『銭ゲバ魔女の収支報告と、消えない呪い』②
|